(続)富士火力演習の人々 その2

(上から読んでね)
【一緒に行ったオジさん】
 車中でワシャの斜め前に座っていたオジさん、そうさなぁ年のころなら60ちょい過ぎといったところか。だみ声でテンションが高くて、隣の席のオジさんとしきりに「携帯メールが解らん」という話をしている。そのオジさんの前の席にやはり60代のオバさんが座っていて、このオジさんに「リクライニングを少し倒していいですか」と許可を求めた。オジさん、待ってましたとばかりにオバさんに話しかける。
「ええよ、ええよ、目一杯下げていいよ」
「いえ少しだけでいいんですよ」
「いいって、目一杯、下ろしてよ。女性の寝姿を見るの久しぶりなんだから、イーッヒッヒッヒ」
 オバさん、目が点になっている。もちろん周囲もそうだ。オバさん、遠慮して(というか恐れをなして)少しだけリクライニングを倒した。
「遠慮せんでもええですって、目一杯下ろしんさい。女の寝姿を見るのは久しぶりなんだから」
 と言われて倒せるものではないよね。オバさん、反応せず。
 オジさん、もう一度、このフレーズを繰り返し、無視されたので、また隣席のオジさんと携帯の話を始めた。
 このオジさん、キャシャな体格の割りになかなかの豪傑で、出発間際からビールを飲んでいる。あんなに飲んでトイレは大丈夫なのだろうか。オジさん、一頻り飲んで食ってしまうとリクライニングを倒して目を閉じた、と思ったらすぐに寝息を立てている。ハヤッ!
 このオジさん、トイレ休憩で何度起こされても、その後、すぐに寝入ってしまうのだ。すごい才能だ。そして朝になるとアンパン、クリームパンが支給されたのだが、ビールでペロリと流しこんで、その上につまみの菓子をボリボリと貪っている。すごい食欲だ。
 それから数分後、オジさんの体がブルッと奮えた。そうするとオジさん、急に席を立って車外に飛び出すと、仮設トイレに一目散に駈けて行った。まもなく「ボン!」という大きな音がして(しませんって)オジさんは戻ってきた。で、バスの横でタバコを立て続けに2本飲んだのだった。寝不足で胃腸の具合も悪く食欲もないワシャから見れば羨ましいほどの健康体だ。参りました。