健啖家

 演習行きのバスに凄いオジさんがいた。0時半出発である。ワシャなんてもう半分眠っているような状態ですぞ。しかし、この50代後半のオジさん、発車直後から、ビールを立て続けに3本、つまみの駄菓子をバリバリ、朝食用に配られたジャムパンとアンパンまで早々に食べてしまった。
 ワシャは神経質だから、生理現象が起きてバスを止めるようなことになってはいけないと、わずかな水分を摂ることさえ控えているというのに、オジさん傍若無人に飲みまくり、食べまくり、そしてシートを倒すとあっという間に高いびきときたもんだ。
 ワシャはバスに乗る前は眠かったくせに、乗ってしまえばバスの振動や寝心地の悪いシートが気になって目が冴えている。何も飲み食いしていないのに、腹具合も悪くなってきた。
 そうこうするうちに最初の休憩場所の浜名湖サービスエリア(S.A)に到着した。さすがに例のオジさんもトイレに走って行ったが、帰りにはしっかり飲み物を手にしているのだった。
 ワシャはその後、やはりトイレ休憩で停まった富士川でS.Aでも用を足したが、オジさんはついに到着まで起きなかったのじゃ。

 東富士演習場の駐車場に到着すると、ガバと起き上がったオジさんは「何か食べるモノはないか?」と幹事に尋ねるのだった。幹事は、余っていた朝食用のパンセットをオジさんに渡し、オジさんはこれをぺろりと平らげた。ワシャは胃腸の具合が思わしくないので、配給のパンなど食べられませんでしたぞ。
 雨のスタンドで演習の開始を待っている午前10時ごろ、昼の弁当が配られた。もちろん例のオジさんは配られたとたんに、封を開いてペロリと食べてしまう。その上、隣席のご婦人の分まで貰って食べていた。お見事と言うしかない。
 昼は自衛隊売店お好み焼きのようなものを買い食いしていたし、帰りのバスでもビールをぐびぐび飲んで、つまみをばりばり食っていた。
 止めはこうだ。
 渋滞などに巻き込まれて、帰りの時間が1時間ほど遅くなっていた。幹事は岡崎インターを出る前に、トイレ休憩を考えていたらしいが、「ますます遅くなってしまうので、休憩をとらず一気に三河安城まで走りたい」と提案した。
 50分ほど前に牧ノ原S.Aで休憩したところだったので大方の乗員に異存はなかった。みんな早く帰りたいのだ。しかし、件のオジさんが異を唱えた。「腹が減った」というのだ。特に予定していたP.Aの立ち食い蕎麦は美味いのだそうだ。オジさんは15分の休憩で蕎麦を食べ、爪楊枝で歯をシーシーしながらもどってきたのである。参りました。