雲泥

 最高の試合だった。これが本物のスポーツでしょ。ワシャは実は野球なんて好きではないのだが、日曜、月曜の早稲田実業VS駒大苫小牧の試合からは目が離せなかった。この17歳、18歳の少年たちが甲子園というリングで繰り広げた試合に魅了された人は多かったに違いない。日本全国が感動したのである。
 駒大苫小牧の田中投手が敗戦インタビューで「あいつ(斎藤投手)の方が上だった」と敵の実力をきちんと認めた。これぞスポーツマンシップである。勝投手の斎藤くんも奢ることなく丁寧な言葉でインタビューに答えていた。
 斎藤くんや田中くんのわずか17年ほどの人生で野球に費やしてきた努力というのは並大抵のものではないだろう。しかしこの謙虚さ、この慇懃さはいかばかりであろうか。

 かたや20日インドネシアの選手と試合をしたポコチングの亀田大毅は翌日の記者会見で声を荒げてほざいていた。
「昨日の相手も(インドネシアの)ベルト持ってる。『亀田の相手は弱い』って言うなら、今まで戦ったヤツを呼んで(亀田より)早く倒せばええやん。お兄ちゃんの相手も『弱い』言うなら連れてこいや」
「あんなふうに記事を書かれたら、一般の人はみんな『八百長か?』って思うやろ。気分悪いわ」
「オレらは死にもの狂いで練習してる。オレはいいけど、お兄ちゃんの相手は世界ランカーなんやで。(対戦相手の)元世界チャンピオンまでもバカにしてるってことやろ」
 斎藤くんも17歳、このサングラスをかけたチンピラも17歳である。どういう育ちかたの差がこれほどまでの違いになってしまうのだろうか。それにプロスポーツ選手が、努力のことを口走ってはいけない。プロにとって努力なんてことは当たり前なのだ。斎藤くん、田中くんはそんなへたれたことを絶対に言わないぞ。この一言を聞いただけでも、このチンピラボクサーが大して練習をしてこなかったことが、垣間見えてしまう。
 同じ17歳だと言うのに「雲泥の差」だな。

 21日の朝日新聞の1面は礼節を知る球児たちだった。それどころか社会面、スポーツ面合計4ページにわたって早業VS駒苫に紙面を割いている。全ページカラーでね。 
 記者会見で大口を叩いた選手の記事といえば白黒ページの片隅に20行(写真なし)のコンパクトな記事にまとめられていた。この紙面の差が感動の差である。そのことを自覚しなければボクシングに明日はない。