人類の岐路

 手塚治虫の1967年の作品『火の鳥 未来編』の中にこんなエピソードがある。
 核戦争で人類を含めた地球上の生命という生命がことごとく滅ぶ。唯一、火の鳥に選ばれた山之辺だけが死なない体を得て生き残る。寂しい山之辺は、ロボットを作ったり合成人間を作ったりするのだが失敗して、ついに自然のなりゆきにまかせて人間が現れるのを待つという長大な計画を立て、海に炭素と酸素と水素のまざりものをたらすのだった。それはコロイドになり、コロイドがゼリー状のコアセルベートになって分列、吸収を続けるうちに原始生命体に進化していったのである。そして植物と動物の区別ができ、双方とも陸上に上がり進化を続けた。やがて爬虫類の全盛期が訪れる。恐竜たちの登場だ。山之辺が海におくりものをしてからすでに44億年が経過していた。この次が哺乳類の時代だと、山之辺は喜んだのだが、あに図らんや、爬虫類を滅ぼして次の地球の支配者になったのは知性を持ったナメクジだった。ナメクジたちは進化に進化を重ね、やがて泥と糞をこねまぜて家を作り、その家は高層化され彼らはますます増え、ますます利口になった。法律ができ、道徳ができ、腐敗ガスの力で動く自動車や飛行物まで作ったのだ。最終的に地球の支配者を自認するナメクジは自らの手で環境を破壊して干からびて滅んでいく。そして何千年も降り続く雨によって文明の痕跡は消えてしまった。
 という悲しい物語なんですな。

 さて今の地球を支配している人類というナメクジはどうでしょうね。山之辺が見たナメクジよりもちっとは利口なんでしょうか?ナメクジよりはまともだと思いたいけれど、国家間の二酸化炭素の排出基準すらまとまらない下等生物は、やっぱりやがて絶滅する運命なんでしょうね。まぁ人類が消えてなくなったって地球には関係ない。むしろ地球のことを考えれば、人類がいないほうが環境に負荷がかからなくていいくらいですよね。
 東京大学の松井教授(地球物理学)が監修した『フューチャー・イズ・ワイルド』という本がある。この中にこんなことが書かれている。
《目下のところ、人類は6回目の大量絶滅が起こる原因を積み重ねているところだ。(中略)次の大量絶滅は昔のものと違って、無数の植物や動物の生息環境を侵食していった人間の活動が引き金となる。》
 手塚治虫が警告を発してから40年が過ぎようとしている。世に蔓延る無能な権力者たちはいったい何をしていたのだろう。