アルバイト曼荼羅 その2

(上から読んでね)
 ガキどもはトラックがプラットホームに到着するたびに荷台に群がり荷卸しをするのである。早く済ませれば次のトラックが来るまで休憩になるからそれこそ必死だ。ちょんまげリーゼントも絶対に普段はこんなには働かないだろうというくらい働いている。さっきまで死んだような目だったのが生き生き輝いているのがほほ笑ましい。
 蟻が落ちた飴にたかるようにして荷卸しをして、終わればプラットホームの上で一服である。蝉しぐれの中、一仕事終わって吸うハイライトは美味しかったなぁ。
 一日一緒に作業をやっていると、いつしかちょんまげリーゼントとも話をするようになった。剃りこみは異常だったが、話を聞いてみれば、隣町の工業高校に通う普通――ちょんまげリーゼントをしている段階で普通ではないが――の高校生だった。
  午後の休憩の時だった。数人が車座になって雑談をしていると、ちょんまげリーゼントの兄貴がこう言った。
「オレは○○工業高校の番長グループなんだぜ」
 ちょんまげリーゼントが真顔で眉間に皺を寄せているのを見たら、ワシャもHも吹き出してしまった。
「番長って、あなた、漫画じゃないんだから、○○工業の番長はそんな面白いヘアースタイルしなきゃ務まらないの?」
 と、Hが自慢のちょんまげをチョンチョンと摘んだから大変だ。
 ちょんまげリーゼント、突然、怒り出したねぇ。
「おめえらなめとんのか!」
「だって、番長のちょんまげが面白いんだもの」
 Hは完全にちょんまげリーゼントをいじり出している。でも、体格や根性を比較してもちょんまげ番長はHに勝ち目はなさそうだ。一頻り二人はプラットホーム上で追い駆けっこをして、最後は監督に怒鳴られて終了した。
 短い夏の楽しいアルバイトだったわい。

 その後、ワシャは別のアルバイトのほうにシフトしてしまったので、結果、3度行ったきりで終わった。Hはその後もちょくちょく小遣い稼ぎに行っていたという。卒業間際になってHから、「ちょんまげ番長が水産加工会社に正式採用になった」ことを聞いた。
 真剣な眼差しで荷物の積み下ろしをしていたヤツならきっと優秀な倉庫番になるに違いない。めでたしめでたし。と思った18の春だった。