アルバイト曼荼羅 その1

 ワシャは苦学生じゃった(笑)。なにせ貧乏教師の倅だから家は常に火の車で学費など出してもらえなかったのである。だからアルバイトは通算すると60ほどやっただろうか。
 高校2年の夏だった。梅雨明けの蒸しかえるような暑さのために眠るもならず、詰まらない授業を半ばシカトしながら(だからアホになったのね)、下敷きを団扇替りにして暑さをしのぐしかない。そんな時に小さく折りたたまれた紙片が届けられた。友人のHからの伝言だった。
『週末においしいアルバイトあり。やらないか?』
 と書いてある。このところ退屈していたし、軍資金も底をついていたので速攻でO.K.を出した。
 アルバイトは水産加工会社の荷運び手伝いだった。時給は500円、高1の冬にやっていたちゃんこ鍋屋の時給が280円だったから破格といっていい。それに即金で払ってくれるというから金欠の身にはこたえられなかったなぁ。
 朝は7時45分までに水産加工会社の事務所の前に集合になっている。頭数がそろい次第打ち切りになってしまうので遅刻の常習のワシャも必死だ。その日はHと一緒に7時30分から並んだおかげで、採用の20人の若僧の中に入ることができた。それにしても日銭を稼ごうという若僧は、どいつもこいつも癖のありそうな目つきの悪い野郎ばっかりだ。ヘアースタイルだって「そんなに剃りを入れたらリーゼントじゃなくてちょんまげだろう」というような奇天烈な奴まで混じっている。駅であったら絶対に喧嘩になりそうな奴ばかりだったが、ここではみんな一様に大人しい。トラブルを起こせば1日4000円の収入がふいになっちまうし、なにしろ水産加工会社の大人は怖そうで強そうだった。虚勢ばかりの高校生の相手ではなかったのだ。
 仕事は巨大な冷蔵庫(ビルが丸ごと冷蔵庫)の入口前のプラットホームで待機していて、入庫してくる冷凍トラックから箱詰めされたスケトウダラをパレットの上に積むという単純作業である。
(下に続きます)