渡辺謙、樋口可南子主演『明日の記憶』を観る。
う〜む……なかなかいい映画じゃった。物語は単純で若年性アルツハイマーを発症した男(渡辺)の苦悩とその男を支える健気な妻(樋口)の話である。二人の好演に、香川照之、渡辺えり子などの芸達者がからんでくる。そして名優大滝秀治がドラマに絶妙の味付けをしていた。またバックに流れる静かなメロディが心地よい。ほろりとくる映画ですぞ。やはり邦画はいいなぁと再認識させてくれる一作だった。
http://www.ashitanokioku.jp/
(公式サイトでサントラが聴けます)
帰路、書店によったら萩原浩『明日の記憶』(光文社)があったので思わず購入して読んだ。小説も佳作である。
アルツハイマーという病気は恐い。「想い出の死」とでも言うんだろうか。家族とのかけがえのない記憶や友人との大切な想い出がことごとく死滅していく恐怖はたまらないものがある。
ワシャの場合は、万年アルツハイマーのようなもので、酒を飲んだ席の約束などきれいさっぱり忘れてしまうアルコール性記憶喪失だし、さっき手にしていた本をどこかに置き忘れて大騒ぎをするなんてことは日常茶飯である。最近は昔の想い出も忘れちゃったな。可愛がってくれた祖母との想い出もずいぶん薄くなった。まぁ何十年も前のことだから仕方ないけれど……
「人間には忘れるということがあって、それはひとつの救いにもなっている」と佐多稲子が言っている。
そうだよな。生きていくためには忘れなければいけないこともけっこうあるんだよね。
ラストで、妻の記憶を喪失してしまった夫の横顔を見つめる枝実子の微笑みは深い。印象に残るシーンだ。