怨霊、鬼、妖怪

 愛知県高浜市の瓦美術館で「鬼と妖怪の造形」と題する企画展が開催されていた。もうすでに閉幕となったのだが、ぎりぎりセーフで観ることができた。
 展示会は、漫画家の水木しげるさんの絵や資料が基本となっている。企画協力が水木プロダクションなので、ごっそりと企画を買い取って展示したものだろう。行政サイドとしての手はかかっていない。もちろん鬼好き、妖怪好きのワルシャワとしては、楽しい企画展ではあった。
 でもね、展示はちょいと不親切だなぁ。数十点の水木作品が並んでいるのだが、キャプションがない。手をかけなくてもいいけれど、最低限の説明はしておかないと……。
 たとえば「おとろし」である。
http://www.youkaiwiki.com/entry/2013/01/30/%E3%81%8A%E3%81%A8%E3%82%8D%E3%81%97
 これは水木さんの漫画ではないが、これを基にして書かれた水木妖怪の下に「おとろし」と表示してあるだけなのだ。これが「おとろし」という妖怪だということはわかる。しかしそれだけの情報しかない。今回の企画展の小冊子には「おとろしは廃屋の塀や、神社の鳥居にいて、不信心な者がいると、どさっと落ちてくる」と書いてある。それを読めば「ふ〜ん」と思うのだろうが、その絵の前ではなんの説明もないから、子供たちも絵を見てさっさと去っていく。少なくとも小冊子に書いてあるくらいのことは、面倒くさくても説明しておくべきだ。その上に「最近は衆議院議員片山さつきとなって国会で活躍している」と付け加えておけば完璧だろう。
 話が逸れるが、ワシャは常々片山さつきさんのヘアスタイルについて書いてきた。初出は2008年6月8日であるから、かれこれ6年にわたって話題にしているんだね。でも、6年にわたってというか、その前からずーっと片山さんはおとろしカットを続けている。本人は聖子ちゃんカットのつもりなのだろうけど、年齢を考えるともう少し軽くしたほうがいい。いつまでも過去の栄光(といっても絶対数が少なかった東大生女子の中のミス東大)を追っていては見苦しいだけだ。そんなものはさっさと過去に捨て去って、今を生きなければいけない。彼女の政治家としての資質を疑うのは、この聖子ちゃんカットへの「執着」に尽きる。己を客観的に見られない人物が国政を客観的に見られるわけがない。

 話をもどす。
 おとろしはかわいげのある妖怪である。まぁ妖怪というものはそもそも愛嬌があるものだと思う。
 しかし、怨霊となるとちょっと怖い。竹田恒泰『怨霊になった天皇』(小学館)、山田雄司『跋扈する怨霊』(吉川弘文館)などには、怨霊にならざるをえなかった悲しき皇族、高官の話が並んでいる。長屋王藤原広嗣早良親王菅原道真崇徳天皇後鳥羽上皇安徳天皇順徳天皇、楠正成、新田義貞護良親王……。
 権力争いに敗れる。その結果として自殺する、殺される、流刑先で憤死する。その後、勝者の政権が動き始めるのだが、そこは日本列島である。地震は起きるし、台風は来る。疫病も流行れば、火災も起きた。戦乱もあろうし、飢饉にも見舞われる。ましてや宮中内でのトラブルなど日常茶飯だったろう。それらが発生すると、なんでもかんでも「怨霊」のせいにされた。気の弱い公家衆や智慧のまわらぬ坊主どもは「祟りだ、祟りだ」と言って騒ぎまわり、慰霊のための神社仏閣を造りまくった。「怨霊」を祀り上げたのも――いくら恐怖心からとはいえ――実は権力争いに勝った方だということを忘れてはならない。死んでからも生者の都合で魔王にされたり、鬼にされたり、あるいはその延長で神に奉られたりする。
「おちおち死んでられまへん」
 は、斬られ役5万回の福本清三さんの本のタイトルでしたが、勝者に怨霊の濡れた衣を着せられた皆さんも、おそらくそんな心境ではないでしょうか。