成金の敗因

 堀江貴文の『稼ぐが勝ち』を読んだ。なかなか興味深かった。堀江容疑者の迷言が盛り沢山で、例の《人の心はお金で買える》もこの本の中にあった。他にも《金を持っているやつが偉い》《女はお金についてきます。》《人間はお金を見ると豹変します。豹変する瞬間が面白いのです。》《人間を動かすのはお金です。》などなど言いたい放題だわさ。
 以前から思っていたことだが、堀江貴文の発言には奥行きというものが感じられなかった。その奥行きのなさを報道キャスターの長野智子はこう評している。
《数回お話しただけの、ごく個人的な印象だけど、すごくフラットでいいなと思ってました。こびへつらうでもなく、相手に合わせるでもなく、すごく率直に自分の本音を言葉にする。今、さかんに彼の強気な発言を集めて報道されてますが、決して無礼なわけではなくて、むしろフラットに相手に敬意を払うし、頭の回転が速くて次々に正論をぶつけてくる彼に、嫌な気持ちを抱いたことはないし、むしろ気持ちがよかった。》
 ふ〜ん、フラットで、こびへつらわず、相手に合わせず、素直って、要するに「ガキ」ってことですよね。その辺りのことは堀江本人も『稼ぐが勝ち』の中で計らずも触れている。
《僕はいわゆる経済本をほとんど読んでいません。それどころか読書歴自体がほとんどないのです。》
 ほら、やっぱりそうでしょ(笑)。ガキは世間知が低いから一人よがりで自信過剰に陥ってしまう。その弱点を補うために先人達の智恵を拝借するのだが、彼はそれを拒否してしまった。堀江が常にライバル視していた相手にソフトバンク孫正義がいるが、彼は読書家である。竹村健一著『孫正義 大いに語る!!』の中でも《僕は孫子の兵法をよく昔から読んでいました。もう一つランチェスターの戦略も勉強しています。》その片鱗をちらりと見せている。先人に学ぶという謙虚さを彼は持っていたのだ。
 堀江貴文という起業家は、生まれながらの天才だったのかもしれないが、ジークフリートが竜の血を浴びたように「先人の血」で生身をプロテクトするべきだった。「功」の部分も多かっただけに惜しまれてならない。
 といっても、ネエチャンの面を札束で叩いていたブ男が一人消えたっていうだけのことですけどね。