出初式

 昨日のことである。
 朝7時、近所の消防署のグランドで出初式の準備が黙々と始まっていた。消防職員がテントを張ったり机や椅子を並べたりと、忙しく立ち働いている。彼らの吐く生きは真っ白だ。手もとの寒暖計を見れば氷点下3度……寒いわけだね。
 並べられているテーブルを雑巾で拭いていた消防署員が悲鳴をあげた。どうしたのかと覗きにいくと、署員は机の上を指差してこう言った。
「拭いた端から水分が凍ってしまうんですよ」
 みれば机の表面の拭き跡がシャーベット状になっているではないか。ひえええ!
 それでも8時を過ぎるとグランドに陽光が射し始めほんのりと暖かくなってくる。その頃には市内全域から消防団の若者が消防車に乗って集まってくるのだ。式典は9時30分からなのだが、その前にリハーサルをしておくためである。ご苦労様。
 今日は消防団、消防署以外にも婦人消防隊や企業消防隊も参加しかなり大きなセレモニーになる。こいつは楽しみだわい。
 9時30分きっかりに式は始まった。表彰状の授与や来賓祝辞などの退屈な次第が段取りよく進んでいく。
「このように穏やかな青天に恵まれ……」と来賓の一人が言っていたが、本当だ、9時を過ぎて随分と暖かくなってきましたぞ。グランドに整列する消防団員たちの表情にもいつになく余裕がある。よかったよかった。
 それにしても婦人消防隊の格好には思わず吹き出してしまいましたぞ。60人程度の隊員が紺色の制服を着こんだまではよいのだが、靴がいただけない。ファッショナブルなハイヒールをお履き遊ばしているご婦人が数名いた。もう少しTPOを考えないとね…
 消防団員にもへんてこなやつが混じっている。分列行進をするときに制帽を被るのだが、この時に顎紐をする。電車の運転手を思ってもらえばいい。ここまでは格好いいのだが、後頭部から金色の髪が長く垂れているのである。八墓村の亡霊たちのような出で立ちとでも言うんだろうか、彼らにしてみれば出初式などという行事は晴れの舞台でもなんでもなくて、単に消化試合みたいなものだから格好なんてどうでもいいんだろうね。
 まあそれでも、全国の成人式で奇声を発して騒ぎまわっているバカどもと比較すればずいぶん立派な若者たちなのであった。
 式典は11時過ぎに終了した。若者たちは晴れ晴れとした表情を見せてそれぞれの集落に帰っていた。お疲れ様でした。