宰相論2

 自民党が結党50年なので昨日に引き続き宰相の話。
 石橋湛山(いしばしたんざん)という政治家である。第55代の総理大臣と言ってもなかなか顔が浮かばないでしょ。実は総理大臣を2ヶ月しかやっていない短命の宰相だった。
 この人、実は大変な文章家で全十五巻に及ぶ『石橋湛山全集』を書き残している。歴代の首相の中でも、いや世界の指導者を見渡してもこれだけの著作を持っている人は湛山をおいて他にはあるまい。もちろんワシャの本棚に『石橋湛山全集』は・・・ありません。でも、岩波文庫の『石橋湛山評論集』というのが辛うじてありました。
 この中に湛山が昭和43年に書いた「日本防衛論」という文章があるんですな、これが面白い。この年の8月に起きたチェコ事件を取り上げて「国家の独立と安全をどうして守っていくのか」ということを論じている。時の首相(佐藤栄作)が、民主化の動きを武力で踏みにじったチェコ事件を例に挙げ、「ソ連軍の侵攻はチェコの自衛力が足りなかった。だから日本も自衛力を増強しなければならない」という発言したことを取り上げて、湛山は「違う」と言いきっている。
《軍隊をもって防衛をはかるということは、ほとんど世界中の軍隊を引き受けてもやれるということでなければならぬ。(中略)米ソという世界の二大強国の一カ国を相手取って太刀打ちできるということでないと、軍隊でもって日本を防衛することは不可能である。》
《実際問題として、いかなる場合でも負けない強大な軍隊をもつことは、日本にとってたいへんな負担である。おそらく、日本の国力のほとんど全部を傾けつくしてみても、及ばない。》
 都知事が言ったように、アメリカは中国と全面戦争をした場合に勝てないだろう。人口が違うし(2億7000万人対13億人)、それにイデオロギーが違う。アメリカが勝てない国にどうやって日本が太刀打ちするのか。自民党が大勝をして景気のいい発言をする政治家もいるけれど、もしその人が宰相を狙っているのなら、もう一度、自民党の大先輩の意見に耳を傾けて現実を見たほうが無難だろう。