兄と弟

 今、「相撲」(平成5年4月号)を手にしている。表紙は初優勝を果たし、嬉しそうに天皇杯を持っている若花田(兄)である。特集ももちろん若花田関連です。「[春爛漫、二子山場所]若花田、初優勝の感激」よかったねお兄ちゃん。
 ただし番付面では、貴ノ花(弟)は東の大関にでーんと座っており、やはりお兄ちゃんは弟の後塵を拝している。人気絶頂の貴ノ花に常に一歩も二歩も控えていなければならない立場なのである。
 もう1冊、サンデー毎日創刊70周年記念に発刊された「貴花田」というアルバムがある。もちろん主役は弟くんだ。グラビアのどこを見ても「貴花田」の顔顔顔・・・「若花田」は弟の写真の背景でしかない。
 相撲界には厳然たるルールがある。強い者は上、先に上位になったものが偉いというものだ。この序列ルールが自意識の強い若き若花田を苛んだであろうことは想像に固くない。相撲界に入る前は「兄貴」として弟の上に立ってきた。親も世間もそういった扱いをしてきただろう。事実、二人が入門する前まではどちらかといえば花田勝が主役の写真が多い。それが実力本意の世界では根底から簡単に覆ってしまう。この兄弟の実力が極端に乖離していれば諦めもつく。しかし拮抗していた。拮抗しているのだが、絶対に抜けない差があった。残酷といえばこれほど残酷なシチュエーションもあるまい。
 兄が相撲界に残らず実業界に転進したのは当然の帰結といえる。勝がもし相撲界に残ってみなさいよ、死ぬまで弟の風下で生きなければならなくなる。そんなことは死んでも嫌なのだ。だから一生食いっぱぐれのない角界から身を引いたのである。そんな兄の気持ちすら慮ることのできぬバカ乃花は本当にバカだね。
兄は弟と同じ土俵に上がるために土俵を去ったのである。社会という世界のルールに従えば兄が喪主を務めるのは当たり前だ。
 今回起きた一連の不祥事の根源的責任はすべて無神経な弟にあると確信している。
 今日から名古屋場所である。貴乃花親方は今後一切口を開かず相撲に邁進せよ。相撲道(そんなものあるんかいな?)を志すものの恥は土俵でそそがなければならない。
 先場所は部屋頭の幕下五剣山が10枚目で1勝6敗と大負けしているし、三段目の新堂は引退しちまったじゃないか。貴翔馬(たかしょうま)は2勝5敗、福生乃花(ふきのはな)、鈴の花、ともに3勝4敗、序二段の山田は2勝5敗、北冬花(ほくとか)が1勝6敗、序の口貴樹山(たかきやま)は2勝5敗と惨憺たる有り様なんですぞ。わがままを言っている場合ではない。