歩くの大好き その2

 考えてみれば、数年前に取り壊した我が家だって、サツキとメイの家そのものだった。もちろん間取りや外観は違うけれども、日当たりのいい廊下があって、その先に洋間があって、縁の下にはいろいろなガラクタが詰め込んであり、いかにも何かがいそうだった。風呂だってタイル張りだし、急な階段を上がると2階は真っ暗で、立て付けの悪いベニヤの雨戸を開けると、部屋じゅうに光りが広がって「まっくろくろすけ」が大あわてで壁の穴に逃げ込んでいったものだ。それに2階の窓から屋根に上がって見る風景は格別だったなぁ。
 そうだよ、サツキとメイの家など探せばまだまだいくらでも残っているのである。何もわざわざ愛知博に作られた偽物を見にゆく必要などない。いくら精巧に作られていても、そこで生活が営まれ家族の歴史が染み込んでいなければ、それは人工の風景でしかない。極論をすれば死んだ風景である。
 宮崎駿が平成3年に「トトロの住む家」という画文集を出した。阿佐ヶ谷や吉祥寺に残る懐かしい家をスケッチと写真で紹介したものだが、本物はまだまだ町の中や田舎に沢山ある。ゴールデンウイークはそんな家を探し歩いてみるとしよう。
 そんなことを考えながら歩いていたら家を通りすぎてしまった。