スーパー幼児殺害事件の現場で

 赤ちゃん刺殺事件がどうにも不愉快で脳裏から離れない。ワイドショーで氏家容疑者の貧しかった生立ちをやや同情的に報道していた。貧しいゆえに政治家になりたいという夢も叶わず、自暴自棄になったってか?
 そんなものではない。世間に貧しくたって健気に生きている人はたくさんいるんだ。断片でしか見えてこないが、氏家容疑者が生きるために努力をしたというところがまったく見えてこない。己の不甲斐なさで現在の境遇が発生しているにも関らず、世間を逆恨みして、無辜の幼子に八つあたりするとは、卑怯だ。
 氏家容疑者が逃走したと思われる経路を、スーパーから逮捕された現場まで歩いてみた。スーパー周辺は名鉄新安城駅の南側の高層マンション街で、近い場所にもう一店舗大型店があって景色的に賑やかな新興住宅街といった面持ちである。氏家容疑者は赤ちゃんを刺殺した後、歩道のある幹線道路を南下したと思われる。そして小学校左手に見ながら通りすぎ(通りすぎてくれてよかった)、児童公園で血のついた雨具を脱ぎ捨て、名鉄の踏切をわたって逮捕現場へとむかうのだが、線路から東の一帯は見渡す限りの農地となっている。この田園風景のなか氏家容疑者は漂うように農道を東にむかった。そして遊歩道に突き当たり、そこで御用となる。
 赤ちゃんの将来を葬りさった後、冬枯れの田圃のなかを伊吹颪に吹かれながら何を考えていたのか。マスコミは「心の闇」などという言葉をしきりに使いたがるが、そもそも、見ず知らずの赤ちゃんを一撃で殺害するモノに心があるのだろうか。
 物寂しいが穏やかな風景の中、「ふう」とため息がでた。