この世界にケンシロウはいないのか

北斗の拳」という漫画があった。ケンシロウという北斗神拳の伝承者が、拳法家の独裁者と闘い葬って、圧政に苦しむ人々を救っていく、というものだった。ストイックなケンシロウの生き様が格好よく、必ず悪人が「ヒデブッ!」とか叫びながら北斗神拳に倒れてゆく「勧善懲悪」も「水戸黄門」を見ているようで心地よかった。
 それにしてもケンシロウの周ってゆく国々はひどい所ばかりだった。善良な人々は満足な食事も与えられず奴隷として酷使されている。抵抗者は捕らえられ残虐な刑に処せられ命を落としてゆく。それを眺めながら、帝王は王宮で酒池肉林を繰り広げている。
 22年前、バカ者だった私は「北斗の拳」を読んで、「まさかこんな国はありゃぁしねえよ」と、高を括っていたのだが、まったく国際情勢を知らない愚の骨頂だった。
 1997年フランスで「共産主義の黒書」という本が出版された。そこにはイデオロギーという名の下に、人間に対する極悪な犯罪が行われていたことが書かれている。「黒書」は言う。「全体として共産主義体制に起因する死者の数は約1億人ということになる」もちろんこれは精密に積算されたものではなく、あくまで概数でしかないし、共産主義という一イデオロギーの数字でしかない。いろいろな主義、宗教、政策で迫害され死んでいった人々の数はこんなものじゃないだろう。想像を絶する数であることは間違いない。
 そしてこの犠牲者たちは、日本人がマンガを読んでげらげら笑っている時に、ルーマニアで、中国で、ソ連で、カンボジアで、北朝鮮で・・・地獄のような日々を同時進行でおくっていたのである。
 ハート、コウケツ、ジャコウなどが実在するとは思ってもみなかった。(ハート、コウケツ、ジャコウについては「北斗の拳」を読んでね) 
 そして悲しい現実は、21世紀のこの瞬間にも迫害を受けている人々が全世界に多数存在しているということだ。
 怠惰な日本人はもう少し現実を知って謙虚にならなければ、撥があたるぞよ。