お酒の話

 歌舞伎に「三姫」という役柄がある。そもそも歌舞伎ではお姫様役を「赤姫」と呼ぶのだが、その中でも三つの代表的な大役を「三姫」という。演目と役名を並べてみると、「本朝二十四孝」の八重垣姫、「金閣寺」の雪姫、「鎌倉三代記」の時姫であり、どれもが難しい役で、なかなか若手がおいそれとできる役ではない。

 友だちからちょいとしたお祝いに焼酎をもらった。箱から出してみれば、播州八重垣酒造の芋焼酎「黒王」ではないか。
播州は酒の美味いところである。その中でも八重垣の酒は上等なものだと聞いている。作家の稲垣真美は『日本の名酒』(新潮選書)で、「酸味を重視する硬派の純米酒本醸造酒づくりの代表格。それだけに個性の強烈さを求める愛酒家にはうってつけの名酒」と絶賛している。
その蔵元が造った焼酎である。また「黒王」という名前がいいじゃないか。「黒王」というのは知る人ぞ知る名馬の名前なんですね。「北斗の拳
http://www.hokuto-no-ken.jp/series/hokutonoken.html
というコミックを覚えていますか。
 世紀末の核戦争で荒れ果てた世界、そこで残された資源や水、食料を巡って弱肉強食の争いが始まっていた。善良な人々は暴力によって支配され、無慈悲な悪者に虐げられている。そこにケンシロウ(拳四郎)という拳法の達人が現われ、悪人どもをバッサバッサとやっつけていくという荒唐無稽な物語である。
週刊少年ジャンプ」にケンシロウが登場したのは1980年代の初めのころだった。無慈悲な悪人に惨殺をされる無力で善良な人々、「そんな世界は漫画の上だけのこと」と平和ボケしていたワシャは思い込んでいた。だが実際には、世界じゅうに暴力が蔓延し「北斗の拳」よりも悲惨なところは山ほど存在していたんだ。
 話がいつものように逸れまくっているが、そのケンシロウの兄にラオウという最強の拳法の使い手がいた。彼は世紀末覇者を目指しており、その最強の男が乗る猛獣のような黒い馬の名前が「黒王」だった。
 その名前を焼酎に付けるとは、八重垣さんなかなかやりますな。ボトルは黒、ラベルも黒、墨痕も鮮やかに「黒王」と書かれている。気品と美しさの代表である八重垣姫とは対極にある「黒王」だが、それだけにこいつは美味そうだ。とりあえずロックでいただこうか。
 おっと朝からは飲めませんので、夜、ゆっくりと(笑)。