無常の人

 小津安二郎が生まれて101年、亡くなって41年が過ぎた。小津は日本が世界に誇る名映画監督であり、彼の残した偉業は大きい。「東京物語」、「麦秋」、「晩春」、「秋刀魚の味」等々、日本映画の最高峰に位置する作品が目白押しだ。
 また小津の作品にはいい女が出てくる。小津作品を語るには欠かせない原節子、日本人離れしたご尊顔は圧倒的な存在感を示している。「秋日和」の岡田茉莉子は活発で躍動的な美人だった。「東京暮色」の有馬稲子もキュートで可愛かった。香川京子淡島千景津島恵子岸恵子若尾文子司葉子岩下志麻、このラインナップを見ても小津が面食いだったことは一目瞭然である。
 小津は盟友の野田高梧と湘南の茅ヶ崎館で毎日毎日酒に浸りながら脚本を練った。ある意味で小津の作品は「酒」が作ったといってもいいだろう。
「酒は緩慢なる自殺なり」と、言いながらも上手い魚があるとか、いいつまみが手に入ったとかいいながら酒を飲んでいる。
「この町の 小早川家の 酒倉に 風吹きぬけて 秋立つらしも」小津の歌である。ここでも彼の視線は酒の匂いのするほうに向けられている。
 寅さんシリーズの山田洋次が小津のことをあまりよく言わない。なぜかと思ったら山田が駆け出しのころ、小津からその映画センスを随分と酷評をされていたらしい。寅さんシリーズもいいが、やはり「東京物語」には及ばない。
 今日は小津の誕生日であり命日である。