東京散策

 週末に東京をうろうろとしていたのだが、閑散とした(警察は沢山いたが)霞ヶ関界隈を散歩していて思い出したのは、1970年に大阪千里ケ丘で開催された万博の会場だった。30年たってようやく東京だけは未来になったようだ。
 日比谷線霞ヶ関駅から地上へ出た。外務省と財務省の間の潮見坂に顔を出す。広重の版画「霞かせき」の場所だ。広重の絵では坂から東の方角を見下ろしている。遠く江戸前の海が見える、はずなのだが、現在の潮見坂からはまったく見えない。坂を上って六本木通りを皇居のほうへ右折し、へたな小学校の校庭くらいはありそうな国会前信号を北にわたって桜田堀沿いに北上する。左手には首都高越しに憲政記念館最高裁判所国立劇場などがパビリオンのように並んでいる。
 おっと、見とれていてはいけない。国立劇場に用事があったのだ。中村橋之助の「鳴神」を観に来たのじゃった。この「鳴神」という演目は、絶大な法力をもつ鳴神上人を雲の絶間姫が色香をもって篭絡されてしまうというユーモラスでエロティックなドラマなのです。これが1500円で楽しめるのですぞ。
 横浜のパープー女子高ご一行様と一緒の鑑賞になってしまいましたが、まぁおとなしくしていてくれたで邪魔にはなりませんでした。
 観終わって、劇場をあとにして清水谷坂から紀尾井坂に向かった。歌舞伎ファンからすると「紀尾井町」というのは尾上松録のことであり、歴史好きからいうと大久保利通終焉の地ということになる。どちらにしても趣き深い通りなのである。明治期の面影など微塵もないけれど風だけは当時のままだね、と思った瞬間に排気ガスをもろに食らってしまった。「明治は遠くなりにけり」どころが「明治はついに消えにけり」だわなぁ、と馬鹿なことを考えながら四ツ谷方面に向かった。