親はバカでも子は育つ(ただし曲がることあり)

 かつてこんなことがあった。
 長男が幼稚園のときのこと、先輩からPTAの役員を押しつけられた。しかたなく2年間幼稚園に通っては、会議やら催し物やら雑用をやるはめになった。それでも誰かがやらねば済んでいかないので、おばさん役員たちと一緒に働いた。大したこともできなかったがなんとか任期を満了した。
 隣町の幼稚園役員と交流があり、私と同じ役を小さな町では有名な洋服屋のあととりがやっていた。さすがに老舗洋服屋らしく口髭をたくわえいいスーツに身をつつんでいる。たまたまこの男と話をする機会を得たが、この男の口をついて出たのは、役を押し付けられたことへの不平不満ばかりだった。
「それでも地元で世話にならなきゃいけないんだからさ、そう嫌がらずにがんばりましょうや」と、とりなしていたんだが、1年目が終わったとたんに、幼稚園に通っていた娘を私立の幼稚園に転園させてしまったのである。見事といえば見事だが、幼稚園に入って1年、友達もできていたんだろう娘は、親のエゴで仲良しのクラスメートと引き離されることになった。
 週刊文春に、「親としての自覚がない」、「客観性が持てず被害者意識が強い」親がわが子を壊す、という記事があったが、まさにこの洋服屋のあととりは、自分が公的な役から逃げたいためだけに、わが子を犠牲にするというわがままなやつだった。そんな性格が禍したのか、その洋服屋は経営不振に陥り店を閉めてしまった。
 それにしてもあの転園させられたお嬢ちゃんは、まともに育っているだろうか?