能を観にいって歌舞伎を観にいこうという話

 能の「藤戸」を観る。
 物語の舞台は、備前児島。
 藤戸合戦で功名をあげた佐々木盛綱が陣屋に、戦場で我が子を失った母親が訪ねてくる。そして合戦で平家方の侍だった息子を殺した盛綱を激しく追求する。最初は殺害の事実を認めなかった盛綱だったが、母親の追及に隠しきれず、殺したことを白状しその時の状況を語り、死体を鎮めた場所についても母親に告げるのである。反省した盛綱は弔いを行って死者を成仏させるのだった。
源平合戦に材をとった世阿弥の手による名作悲劇である。
 しかし今回はあまり感動しなかった。なぜだろう、と考えてみると、思い当たった。盛綱に息子のことで詰め寄り、泣き叫ぶ母親の姿に、イラク人質3人組事件のときの泣き叫び家族の姿が重なったからである。
 それに比べて、小川功太郎さんの母上は立派だった。戦場で息子を失うという悲しみを背負いながらも気丈に会見に応じていた。さすがに橋田さんの妹だけのことはある。
 そうだ日本の強い母を見るために、こんどは「伽羅先代萩」を鑑賞することにしよう。目の前で我が子がなぶり殺しにあっているにもかかわらず、無念をじっと堪える政岡の気丈な姿を目に焼き付け、世間の不快を吹き飛ばそう。と、思ったけれど、この演目を観るには、11月の大阪松竹座まで待たなければいけない。くーっ、半年も先か、待ち遠しいなぁ。