蛙男

 蛙男のことである。
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 おっと間違えた。シャブ夫婦の旦那の高相祐一のことだった。
 彼の写真が、今週の「週刊文春」のグラビアに数葉載っていたので、早速、人相をマジマジと拝見する。ううむ、たまたま直感で能面の「蛙」を引き合いに出したが、本当に似ているから笑える。下唇直下のちょび髭、離れた目、下瞼より突き出た上瞼、外側で弧を描く繭、通った鼻筋、高い頬骨、水に縁のあるところなどもそっくりだ。
週刊文春」のどの写真からも彼が体じゅうに刺青をしているのが判る。右肩、左上腕外側、左上腕内側、鳩尾、右胸、左胸、そして極めつけは首筋だ。この首筋の刺青は隠しようがない。つまり高相容疑者は、フォーマルな状況で「刺青を許容してくれる社会」でしか生きるつもりがなかったということになる。極道でもそのあたりの分別というものがあるのだが、この人といい後藤真希の弟(首筋に刺青)といい、真っ当な社会そのものを捨ててしまっている。
 楽天の監督の野村克也氏が『巨人軍論』(角川oneテーマ21)の中でこう言っている。
《ある心理学者に訊いたところでは、茶髪にしたり、ヒゲをはやしたりするのは自己顕示欲の表れらしい。要するに目立ちたいのである。》
 仕事もせず、ふらふらと遊び回っていた甘ったれは、一生懸命自分の体に針を刺して自己顕示をしていたんだね。人生に真剣に取り組んでいないヤツというのは実に哀れだ。

 能の蛙の面は「藤戸(ふじと)」という曲目で使われる。確かに高相容疑者に似てはいるが、「藤戸」の蛙は違った意味で哀れだ。
 時は元暦元年(1184)、源氏の武将、佐々木盛綱は藤戸の合戦に先立ち、明日の決戦の場になるであろう藤戸の海の浅瀬を地元の浦人(うらびと)に案内させた。戦いを有利に運ぶために地の利を得ておきたいということだ。一通りの地理を頭に叩きこんだ盛綱はあることに思い当たる。
「この男は下郎だ。だから人から頼まれれば誰彼となくこの海の地形を教えるであろう。それではわしが手柄を一人占めにできぬ。ここは自分だけの秘密にしておかなければ」
 そう決心すると、秘密保持のため盛綱はその男を刺し殺してしまった。
 この時に非情な盛綱に殺されてしまった浦人の亡霊が蛙なんですね。哀れでしょ。昔の侍というのは下郎を虫けら程度にしか思っていない。ひどい連中だったんですぞ。だから、高相容疑者と蛙を比べること自体、蛙に失礼なようなことですが、ホントによく似ているんでお許しあれ。