おじさんたちの黄昏

 ジャーナリストの日垣隆の言葉。
「劇場の女性化が著しいのである。逆に言えば、おじさんの発奮場所や専用の娯楽施設が消滅しつつあると言える。どうでもいいことだが、客席でばりばり菓子を食い続けるのはやめろよ」
 このところ日曜出勤が続いた。その代休をもらったので昨日、シネマコンプレックスに出かけた。ブラッド・ピットの「トロイ」を見るためである。平日の昼頃にシネコンに来るのは、久しぶりだったが、正直、驚いた。おばさんの大群がシネコンを占領していたのである。
 映画館に入った。指定席の画面を見ると、ほどよく埋まっている。後方の真ん中あたりに席が空いていたので、そこを押えた。早めに入場し席に着き、文庫のページを繰りながら上映開始を待った。ぎりぎりになって左隣にご婦人2人連れが座った。かしましく子どもの進学のことについてくっちゃべっている。頼むから映画が始まったら黙ってくれよ。上映開始のブザーが鳴り、場内が暗くなった。まだ右隣は3席空いている。たしか指定席画面では埋まっていたはずだ。ふっと嫌な予感がよぎったが、スクリーンが明るくなったので画面に集中することにした。
 まもなく右席の3人が現れた。大柄なご婦人がどっかと私の隣に座った。そのとたん、甘酸っぱいアルコール臭が鼻梁をついた。
 こいつら真昼間から酒をかっくらっていやぁがる。
 座ってから、ご婦人連、小声でなにやら話しているので、「お静かに」と、注意をすると、3人はようやくのこと静かになった。
 映画が中盤まで進んだころ、地響きのような音が耳朶に伝わってきた。隣のおばさんのいびきである。驚いてよく見れば、おいおい3人とも寝ているじゃないか。結局、3人は映画が終了するまで酒くさい息をはきつつ熟睡したのである。ご亭主たちははこの時間帯、会社に出勤し神経をすり減らして仕事をしているに違いない。旦那が、自分のかみさんのこの状況を見たらどう思うだろうか。なにも映画を見るなと言っているんじゃない。ブラッド・ピットとはいえ映画は芸術だから親しんでくれればいいが、館内で臭うほど飲むなよ、爆睡するなよ。
 女性の強い時代だということは認識をしていたが、ここまで女の時代だったとは知らなかった。この女どもに週末になると「あそこへ連れていけ、ここへ連れていけ」と、牛馬のようにこき使われているおじさんたちに同情の念を禁じえない。
 負けるな、世のおじさんたち!(自戒も含めて)
 全然、関係ないけど今夜の「朝まで生テレビ」には日垣隆がでますよ。