その手があったか

 この間の御園座での話。
 ワシャは3等席最前列に座っていた。背後から関西弁の男の声がする。何かぶつぶつ言っている。その声が通路階段を降りてきて、ワシャの横の階段に小柄なおっさんが腰をおろした。安物のハンチングを被ったいかにも河内のおっさん風のおっさんだ。もうすでに染五郎の舞台は始まっているというのにうろうろするんじゃない。
 5分ほどそこに座っていたが、おっさんは更に下に移動し、2等席の通路階段に腰を据えた。そこは係員から見える場所だったので、すぐに女性の係員が現れて、何やら小声で注意している。
「お客様、席にお戻りください」とでも言っているのだろう。
 それに対しておっさんは「嫌だ」と駄々をこねる。
 しばし攻防が続き、おっさんはついに声を荒げた。
「もうええわ!」
 そして3等席の後方を見上げると「おい、帰るで」と叫んだ。こういうバカが時々紛れ込むんですな。何をしにきたんだ。おっさん。

 そのおっさんが連れの女と消えてからは静かに観劇することができた。
 ふと前方の舞台下手にあるボックス席(2等席)を見ると、ハンチングのおっさんと連れの女がちゃっかりと座っているではあ〜りませんか。劇場側が一般の客から隔離したんでしょうね。4500円で入場して9000円の席に座るとは、おっさん、端からそれを狙っていたんだな。