兵器は進歩するけど、人類は進歩しないね

 以前に、陸上自衛隊富士学校で90式戦車に試乗したことがある。欧米の戦車と比較しても最新・最強のハイテク戦車で、北海道の第7師団を中心に277両が実戦配備されており、陸上自衛隊の最先端の兵器だと思っていた。が、どうも違うらしい。すでに北海道の大地を舞台にして戦車が展開し、戦闘行動をとるという戦略思想が古いものだった。90式を導入した頃には、未だ北の脅威としてソビエト連邦が健在で、ソ軍が北海道に上陸してくるのに対処をするという戦略思想のもとに機甲部隊が編成され、迎撃戦力の主力として90式は存在していた。それが共産主義の崩壊とともに、仮想敵国が北朝鮮に変った。北朝鮮には大規模部隊による日本上陸という戦い方はない。せいぜいミサイル攻撃か、工作船を使った局地テロ攻撃といった戦闘行動しかとれないだろう。もちろん自衛隊はいくつかのシミュレーションをして、対北朝鮮の戦略を練っているだろうが、どう検討しても90式の活躍する場面はなさそうである。
 現在、日本全土に配備されている戦車は90式、74式あわせて1000両を数えるが、今後は規模縮小の予定だという。21世紀の戦争にはもうクルスク大戦車戦のような大国と大国ががっぷり四つに組んでの大規模な戦闘は行われないということなのだ。そのことは今回のイラク戦を見てもそのことは明白である。イラクに展開したアメリカ機甲部隊は、あらかじめ精密誘導弾やバンカーバスターを集中投下し相手の主力を徹底的に叩き、その後に悠々と本隊を侵攻させている。戦車同士の大会戦などはすでに歴史の中の話なのである。
 富める国は、ハイテクを駆使して、遠方から敵をし止めていく。貧者は人の命を使って近距離から敵を狙う。21世紀にはいり、戦争の形態が様変わりして、戦車などという兵器は中途半端なものになってしまった。砲としては遠くへ飛ばない。図体がでかいから戦場で目だってしまって歩兵の携帯する対戦車砲の餌食になってしまう。破壊力も携帯兵器で同程度の効果をあげるものが出ている。84mm無反動砲を持った歩兵なら小さな茂みに隠れることが可能なのだ。
 人間の憎悪とか争いのもとは、太古からまったく変らないのだが、戦闘形態は大きく変化をしている。戦争も強者VS弱者という構図が多くなってきた。強弱といっても必ずしも強いほうが勝つということではなくなってきている。弱者は人的被害をあまた出すとしても、最終的に強者を退けるというそんな結果もある。
 戦場の最強者だった戦車の退場にそんな背景があるのかもしれない。