終わってみれば天狗に敵なし

 大阪場所は、朝青龍の独り舞台で、大関陣の不甲斐なさばかりが目立つ場所となった。確かに11日目までは、千代大海魁皇ともに全勝を守り、これはひょっとしたらと思ったのだが、12日目に魁皇横綱に負け、13日目にはその魁皇千代大海が破れてしまった。栃東は3日目に早々と休場し、武双山は9勝で角番を脱出するのが精一杯だった。加えて関脇も小結もぱっとしないから、相撲が盛り上がらないことこの上ない。このまま、朝青龍が連勝を続け、土俵上でモンゴル相撲のような格好をして好角家の神経を逆なでばかりしていると、大相撲の灯は消えてしまうのではないかと心配にさえなる。
 千秋楽、朝青龍への優勝旗授与の場面で、カメラは桟敷席のご婦人をとらえた。彼女は、怒ったような表情で、隣の人にしきりに話しかけていたが、突然、「天狗になっているのよ」とばかりに、鼻の前に両の拳を連ねたのである。これがおおかたの観客の心情だろう。その証拠に朝青龍への会場の拍手もまばらだった。
 優勝がダグワドルジ、殊勲賞・技能賞がダシニチャム(朝赤龍)、十両優勝がダバジャルガル(白鵬)、私の好きな力士がツェベクニャム(旭天鵬)とモンゴル勢の台頭が著しい。海外から若者が相撲界に入ってくるのは国際化や活性化にいいことだとは思う。思うが、あまりにも国産の脆弱さが目立っては、相撲ファンとして寂しい限りだ。曙や武蔵丸はいてもいいが、そこには貴乃花という日本男児がいなければならなかった。
 朝青龍は23歳と若く、大関陣は千代27歳、魁皇31歳、栃東27歳、武双32歳と年齢が多い。まずこの4人では朝青龍の対極にはなれまい。そしてもっと悲惨なのは、幕内で横綱より年下の力士が同部屋の朝赤龍22歳しかいないということである。この状況では、当分、横綱を脅かす力士はでてこないだろう。
 天狗は中国から日本に伝来した。元は彗星の尾の流れる様子を天のイヌにたとえたものらしい。やがて天狗は日本の風土のなかに土着し、怖いけれどもどこか憎めないキャラクターに変化し、人々の信仰の対象となってきたのである。
 中国のそのまた向こうの草原からきた青き狼よ。きみの祖国にも相撲ファンはいるだろうが、多くの好角家にも気遣って、行動を慎んでくれよ。そして天狗のように日本文化に融合して平成の大横綱になってけろ。