K1、曙VSムサシ。
2ラウンドで、曙はコーナーにムサシを追い詰めた。あまりの圧力に転倒したムサシに対して、曙は右で顔面を打ち、その後、後頭部へもパンチを入れた。ムサシは後頭部を抱えてダウンしている。医者がリングにあがってムサシの容態を見ている。
角田の判断は、「圧力で倒れたムサシはダウンではない。倒れた後、攻撃を加えた曙は減点とする。医師は、ムサシの容態から試合続行はできないと判断しているが、当のムサシが「戦う」ということで、試合を再開する。ただし試合中に、曙の反則が原因と思われるでムサシの容態急変があれば、ただちに試合を中止し曙の失格とする」というものであった。
試合は再開された。ムサシにダメージは見られない。曙は善戦をした。何度も軽量のムサシをふっとばし、その圧力でコーナーに追い込んだ。
結果として、3ラウンド終了して判定に持ち込まれ、ムサシの勝ちとなった。う〜む・・・やはりそうなったか。
横綱の商品価値を下げず、K1の日本人第一人者に傷をつけず、観客が納得する試合にするには、どうしたらいいか。関係者は考えに考え抜いたんだろうね。ムサシをダウンさせることにより曙の強さをアピールし、反則をさせることで最終的にムサシに勝ちをとらせる。試合中、何度もムサシは追い詰められているが、それはあくまでも曙の反則によるダメージのためで、本来のムサシの実力ではない。あるいは本当に曙がムサシをノックアウトした場合でも、曙を失格としてムサシの敗けを消すというわけだ。そして遺恨を残して、再戦ということにすれば観客はまた集まってくるという仕組みだ。
試合中の曙のたった1回の動作によって、以上のような裏側が垣間見えた。
転倒したムサシに右のパンチをいれるとき、曙は、「躊躇」した。「躊躇」したのち、あらためて右のパンチを繰り出した。「曙は興奮している」と、アナウンサーは言う。興奮しているなら、最初のパンチを「躊躇」できない。あの「躊躇」は曙のやさしさなのである。もともと曙は大相撲時代から、フェアなファイターだった。「倒れている相手に攻撃を加えるのは反則だ」そんなことは骨の髄まで染み込んでいる。大相撲の頂点を極めた男は、どんなにテンションが上がったって戦況をみる眼は冷静なのだ。なにせ774回も死闘を繰り広げてきたのだから。
あの攻撃はストーリーどおり、といったところか。