大相撲は死んだ

 千秋楽、結びの一番、横綱朝青龍大関千代大海朝青龍が勝てば白鵬との優勝決定戦があるが、とにかく春場所本割りの最終戦である。大阪府立体育館に詰めかけた相撲ファンもテレビ桟敷の全国の好角家も最上位の2人の取り組みに固唾を呑んだに違いない。朝青龍と同じ高砂部屋に籍を置く33代木村庄之助のさばく最後の一番でもある。庄之助の花道を飾るためにも素晴らしい相撲を期待した。

 バカな!

 横綱の相撲を見て、ワシャは思わず声を上げてしまった。朝青龍千代大海に勝った。勝ったが、過去の対戦を見ても圧倒的に優勢で、それも今場所調子の悪い大関を相手に変化をしたのだ。幕尻のロートル力士が勝ち越しをかけての一番なら止むを得まいが、押しも押されもせぬ大横綱が注文相撲を取るとは前代未聞だ。死んだワシャ爺ちゃんが見ていたら泡を吹いていただろう。
 横綱はただ勝てばいいのではない。このバカ横綱はそう思っているのかもしれないが、横綱は良く勝たなければならない宿命を背負っているのだ。だから偉いのである。こういうことを元大関のバカ潮じゃなかった朝潮は教えてこなかったんだろうね。勝つためにはどんな手を使ってでも勝つという実に意地汚い横綱に成長してしまった。
 そして朝青龍白鵬の優勝決定戦である。品格とか風格とか潔さといったものを全く理解しない卑怯な横綱など見たくもなかったが、心の片隅のどこかで白鵬に期待するところがあった。庄之助の軍配がかえった。

 あっ!
 嗚呼……日本の国技が、今、死んだ……

 白鵬が左へ変化をして、朝青龍をはたき込んだのである。つい先刻、横綱が使った卑怯な手で大関が勝って優勝を果たした。千秋楽の最後の最後で卑怯相撲を二番も見せられてごらんないさいな。どれだけ多くの相撲ファンが去っていくことか。
 少なくともワシャは朝青龍白鵬が消えていなくなるまで相撲は見ないと決めた。
 しっかりしろよ相撲協会相撲ファンは血の涙を流しておるぞよ。