市職員による質問原稿作成について

 昨日、某市議会でおもしろい一般質問が飛び出した。リベラル系の市議が問題にしたのは「市職員による質問原稿作成について」だった。

 ワシャはその業界に詳しいものだから、その質問タイトルを聞いて「えっ?」と驚いてしまった。

 市議の質問は理路整然としていて解りやすかった。この市議のレベルがかなり高いところにあるだろうことは想像に難くない。

 でもね、一般的な小規模自治体の議員って、それこそ商店主であったり、町工場の社長であったり、百姓だったり、組合から推されて出てきた会社員だったりする。いわゆる普通の人なのである。中学校以来作文なんて書いたこともないようなオジサン、オバサンが30分、原稿用紙にして20枚余を書けるものではない。

 ワシャの知っている元役人が言っていた。

「与党の議員の質問など市職員が書くに決まっている」

地方自治も知らず、総合計画も読んだことがなく、市に重点目標、主要施策があることすらご存じない。地域のドブをさらえとか、道路に穴が空いているので補修しろくらいは自分の言葉で語れるんだろうが、大きなテーマ、長期にわたる事業については、そもそもの知識がない」

 普通のオジサン、オバサンも己の力量は知っていて、議会の前にあちこちの課に顔を出して相談をしている。

 でもね、そもそもの知識が行政側とは天と地ほどの乖離があるので、1時間程話していると対応している課長のほうも「こりゃダメだ。時間の無駄だ」となってくる。

「だったらちょっと質問案を作ってみましょうか?」ということになる。

 手慣れた政策部門の課長なら1時間もあれば、質問の骨子くらいはまとめられるからね。

「それじゃあ頼む」ということで、市職員が質問原稿の案を書くことになる。

 でね、その案をもらって自分で自分の言葉に直せばいいのだが、なにも考えていない議員は、そのまま議場で読んでしまう(笑)。

 1時間の質問は3~5つくらいの大項目で構成される。つまり議員はそれくらいの数の課長と打ち合わせをする。容量のいい議員になると、企画部門の課長1人に「やっといてくれ」と頼んで、はいお終いという豪傑もいるが、通常は各課を回るくらいの労力は惜しまない。

 そうすると議員のところにでてくる原稿案が3人の課長の手によるもので、これがそれぞれ違う文体、文章になっている。当然ですよね、別の人が書くんだから。

 これをもらったら、自分の文体、文章に書き変えなければならないのだが、これをやるのが面倒だし、下手に書き換えると意味が変わってしまうことを懸念し、そのまま議場で読み上げてしまう(笑)。

 大項目ごとに、人が変わるというか、言い回しが違うというか、「これ書いた人が絶対に違うよね」ということがまる分かりとなる。

 ひどいのになると、これは以前にこの日記に書いているけれど、質問だけでなく執行部側の答弁部分まで質問席で読み上げてしまったというマヌケな話もあった。執行部側としては、「質問の組み立てに必要かも」と善意に回答を添付したのだろうが、相手を見て渡さないと大騒ぎになりますわなぁ(笑)。

 本人は得意げに朗々と答弁を読んでいるんだが、事務局や執行部は大騒ぎになった。事務局長が気づかない議長を突いて「暫時休憩」と言わせて議会を停めて、事務方がやっぱり気づいていない質問席の議員にわらわらと走って、バカを指摘し、答弁を読み上げたことはなかったことにして、執行部側が同じ文章を読み上げて事なきを得た。

 おいおいボロボロじゃん・・・という話。

 話を戻す。「市職員による質問原稿作成について」を質問したまともな議員は「有識者によればこうしたことは全国の自治体で行われている」とのことだが、もちろんそれは正鵠を射ている。公式な統計などないだろうが、おそらく100%と言ってもいい。

 そりゃそうでしょ。自治体側は大小はあってもすべて首長の下に試験をして集めたその地域でいえば優秀な人材が、何十年にもわたってシンクタンクとしてやってきている。昨日今日、議員になったくらいの、5年、10年、20年議員をやったくらいで、自治シンクタンクを敵に回して丁々発止のやりとりをするには百年早い。

 若くして議員になった世間知らずのお坊ちゃんがいた。5期を務めて何を間違えたか市長になってしまった。その市長が当時や現在の議員を評してこんなことを言っている。

《新図書館建設に向けた話を進めたとき、やはり多くの市議から「なぜ図書館なのか」と言われました。そのなかでも、とくに図書館に一度も行ったことのないような方の理解を得るのは本当に骨が荒れました。》

 この前段で、インタビュアーが市長にこう質問している。

「市長の議員初当選の頃、当時、議員で図書館にいらっしゃるのは市長以外ほとんどいなかったとお聞きしましたが?」

 これ、市長から聞いているに決まってますよね(笑)。これに対して「失礼ながら、今でもそんなに多くいらっしゃるわけではないと思います」と答えている。

 失礼だなぁ。議員は自分以外「本を読まないバカ」と言って憚らない。

 でも、お坊ちゃま市長の言うことも当たらずといえども遠からず、少なくとも某自治体で与党系議員で本を読んでいる議員を見たことがない。

 いけない、この手の余分な話になると筆が走って仕方がない。

 すでに原稿用紙6枚目に入ろうとしている。でもパソコンの前に座るときコーヒーを煎れて持ってきたのだが、それがまだ冷めていない。

 リベラル系市議の質問は始まったばかりである。まだまだおもしろい展開があるんだけど、今日のところはこのあたりでお時間とさせていただきます。(つづく)