市長と副市長の物語

[この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません(笑)]

 国の官僚が地方自治体に出向することはままある。県クラスであれば課長、部長待遇、中小の自治体なら副市長(デプティメイヤー)に請われて市長を補佐する。

 某市のこと。ある市議会議員が40代で市長になる。1期目は政敵の前市長が県から連れてきた助役(デプティメイヤー)が補佐をした。しかしその人が100条委員会が絡むような案件の事実上の責任を取らされて退職をする。次の2期目に助役になったのは市職員から叩き上げた人(№2、以下「ツーさん」)と、もう一人が国から招聘した若き官僚(№3、以下「スリーさん」)だった。市長と助役2人のの3人体制で市政が進んでいくのだが、すぐに弊害が発生した。悲しいかな若き市長(といっても50代)に魅力が乏しかった。市議会議員の頃から詰まらない質問すら年1回しかしない平凡な存在で、政敵の前市長を追い落とすために同僚議員に担がれた軽い神輿でしかなかった。

 そんなことは市の職員も市政にからむ市民も、2~3年接してみれば見透かしてしまう。だからトップを無視して、ツーさん、スリーさんのところに人が集まった。

 そりゃそうだわ。行政のことを知らない市長に相談するよりも叩き上げの副市長のほうが的確なアドバイスがもらえる。また元官僚の副市長は市長よりも若く頭もよかったので人望が高まっていた。どこに行っても、市長を押しのけて副市長のところに人が集まった。権力争いで担がれただけの無能な人物はそこにいるだけの置物の存在になった。

 その置物市長の2期目の最後の1年になった頃から、次の市長、副市長の話が囁かれ始めた。

 なにしろ市長は何もしない、何も言わない、無口な市長だった。ルーティンの業務はツーさんを中心に適切に回し、新規事業についてはスリーさんを核にして動き始めていた。

 しかしそれでは市長がおもしろくありまへんはなぁ。無口だけど、腸(あらわた)は煮えくりかえっていたでしょう。

「僕チンが主役なのにスリーばかり目立っている」                                                                                                                                                                                                                                                  

 国の官僚を退職して副市長になってもらい、新規事業をいくつも動かしているにも関わらず「僕チンの気分が悪いから1期の任期で辞めてもらう」という算段をした。

 職員の多くは、スリーさんがあと4年を副市長として勤め、その後、置物市長の後継として市長になるのが市のためには一番いいと思っていた。市民の多くもそうだったろう。ところが置物市長、官僚を辞し、その市に骨を埋めようと思っている人の首をいとも簡単に切ってしまった。

 当時の職員たちは、この副市長が市から去ったことを心から残念がっていた。反対に置物市長はほくそ笑んでいたに違いない。スリーさんがいなくなってから急に溌溂と空回りをするようになっている。

 捨てる神やあれば拾う神あり。首を切られた後、しばらくして別の自治体から声がかかった。人財を遊ばせておくのは勿体ないからね。

 たまたま別の自治体の市長が官僚として活躍していた当時のスリーさんを知っていて、「あの人なら」と確信をもって副市長に迎え入れた。

 そこで、なんと通算で11年を副市長として働き、大きな仕事を次から次に成し遂げている。

 スリーさん、ある大規模な施設を造り上げた。そのオープンセレモニーの際のことである。当然ながら市長の挨拶が準備され、その原稿は副市長が書き起こしたもの。

 市長の話が進み、副市長は「私の書いた通り話されている」と思ったそうな。ところが挨拶の最後ところで、書いていないことを話し始めた。

「この施設が完成しましたのも、ひとえに副市長の尽力があったからに他なりません。この人がいなければ、これから何十年も市民を支えていくこの施設は陽の目をみませんでした。ありがとう、副市長」

 というようなことを述べたという。

 いい話ですよね。こういった公式の場で市長というのは当たり障りのないことを喋るというのが普通で、この挨拶は異例中の異例ですね。こういう市長であったなら、某市ももう少しまともな自治体になっていただろう。

 他者をちゃんと評価できるメイヤーを、しっかりと仕事のできるデプティメイヤーが支える、これが地方自治の一番いい形ではないだろうか。

 無能な市長、パワハラ町長、おねだり知事にテドロス知事、こんなのがトップでは地方の夜明けは遠い。