くらまし屋に歌舞伎

 このところハマっている今村翔吾の『くらまし屋』(ハルキ文庫)である。今村ファンの皆さんと比べると周回遅れでお恥ずかしいばかりだ。取っつく前は、単なる市井の時代物と思っていたので、手が出なかったんですね。

 人に薦められたこともあって読み始めたのだが、池波正太郎山本周五郎のようにはのめり込めないんですわ。なんていうのかな、江戸風情が漂ってこないというか・・・。

 今村さんは昭和59年生まれだから、江戸の情緒などすでに霧消している時代だった。まだ下町の裏路地に入れば、江戸の町がそのまま残っているような池波さんたちとは時代の体験は圧倒的に違うんだろう。それでも今村さんは資料や文献などから、江戸のイメージを捉えて懸命に紙の上に再現しているのは大したものだ。だけどやっぱり、風情、情緒のところでの池波さん、山本さんの時代の肌感覚のようなものが微妙に匂ってこないかなぁ。

 でもね、第5話の『冬晴れの花嫁』には、実在の老中が登場してホロリとさせられたし、第7話の『立つ鳥の舞』では、これも実在の歌舞伎役者が登場して話を盛り上げていく。このあたりの歴史上の人物の使い方は上手い。

 歌舞伎好きのワシャはついつい話の中に登場する「瀬川菊之丞」や「中村富十郎」という名前に引っ張られて、文庫から離れて資料の棚で悪戦苦闘しているのであった。

 これからが楽しみな作家であることは間違いないので、今後とも注目をしていこう。

 

 すいません。今日、童話作家新美南吉関連で、ちょいとした仕事がありまして、ある現場に駆けつけなければいけません。もうそろそろ支度をしないといけないので、ちょいと短めですが失礼しやす。