また歌舞伎

 夕べ、御園座の大歌舞伎夜の部に行ってきた。

 前日に市川新之助が熱を出したというようなうわさが流れていて、「そりゃあ10歳の子供だもの、連日の大役で疲れが出たんだろう」と心配しましたぞ。「外郎売」を團十郎が代役をするというのも楽しみだけれど、健気な新之助の姿が見たいのも本音にはあった。

 さて、夜の部の演目である。

 口開けは大谷廣松と中村莟玉(かんぎょく)の「相生獅子」。昼の部では「三人吉三」で莟玉のお嬢吉三が観たかったんだ。でもね廣松と日替わりで、お嬢吉三とお坊吉三を演じていて、その日は立ち役のお坊を莟玉が演じる日で、残念ながら女形の莟玉を観られなかった。まぁその後の「外郎売」で遊君喜瀬川を演じ豪華な花魁姿を観せてくれたけど。

 そういう意味では「相生獅子」は莟玉を堪能できた。莟玉、器量ばかりではなく踊りも上手いし、声もよく通る。小柄なところも女形にうってつけだ。でも、もう少し痩せたほうがいいかも。

 その後の「丸橋忠弥」は初めて観た。本名題は「樟紀流花見幕張(くすのきりゅうはなみまくばり)」という。通称が「丸橋忠弥」である。

 この狂言は明治3年に東京森田座で初演された。このとき丸橋忠弥を演じたのが初世の市川左團次だった。要するに左團次家の家の芸といえる。いずれ五代目を継ぐ男女蔵(おめぞう)が丸橋忠弥を演じたわけだが、そういった意味からも相応しい配役だった。男女蔵、声も姿も四代目左團次に似てきたから、楽しみなんだけど、まだ全体的に華がない。四代目にも華はなかったが、まだ若いんだから團十郎とまではいかなくとも、舞台での存在感を観せてほしいものだ。

 でも、ド派手な舞台は初心者の方々には大受けでしたぞ。与力、捕手を演じた若手のアクションは見事でした。若手の研鑽の賜物と言っていい。

 主役が團十郎幸四郎猿之助勘九郎あたりなら、もちろんメインの舞台なりうる。がんばれ~男女蔵

 この後が、お待ちかねの「口上」である。熱の出た新之助が出るのかなぁ。心配だったけど、幕が上がれば團十郎の右にちょこんと座っているではないか。よかった、熱は下がったんだね。10歳の子供に連日の舞台は大変だと思うけれど、もう客席のオバサマたちは大騒ぎ。甲高い声での向上にワシャも「成田や!」と声を掛けましたぞ。

 最後は歌舞伎十八番の「勧進帳」である。もちろん弁慶は團十郎、富樫を菊之助が演じる。山伏も豪華で、右團次、九團次、廣松、市蔵、義経雀右衛門。これは普通、御園座ではなかなか実現しない配役だと思う。さすが襲名披露だけのことはある。

 若干の懸念は、團十郎が少しやつれて見えた。顔が細いのだ。豪傑の弁慶であらねばならないのに、病気あがりのような疲労が見える。やはり大名跡団十郎を継ぐということがどれほど重責なのかが垣間見える。さらに長男の新之助のデビューでもあり、父としてもいろいろな心配があるだろう。今更ながらに奥様の早世が悔やまれる。

 歌舞伎役者、それも大看板の舞台寿命が短い。勘三郎三津五郎福助猿之助など、まだその活躍を観たい役者ばかりが退場していく。

 團十郎丈もぜひにも健康にご留意され、長く十三代目を名乗っていただきたい。

 

 今回の御園座で注目した役者が市川九團次である。昼の部では「吉野山」で道化の逸見藤太を愉快に演じ、夜の部では「丸橋忠弥」で、内通者の義父弓師藤四郎を老いを漂わせながら好演した。さらに「勧進帳」では片岡八郎(山伏)で凛々しく立ち回っている。

 石井竜也に似た顔立ちもいいし、声もよく通る。今回の脇役の中では大活躍をしていた。上方歌舞伎で破門され、その後、現團十郎に声をかけられて一門に入っている。

 なかなか波乱万丈な役者と言えよう。

 これから面白くなっていく役者だと思う。

 

 あ~楽しかった。