落語は堪能、客には嘆息

 昨日、某所で落語会。出演は真打の桂小南、二ツ目の山遊亭くま八、桂鷹治、紙切りの林家八楽、前座の桂南海の5人。

 開口一番は南海(ナンシー)、女の噺家だ。ネタは「牛ほめ」。叔父さんの新築の家の大きさを言う時に、当日の施設を引き合いに出すなんざ、前座にしてはうめえじないかい。与太郎がぼけるところで、「戦場のメリークリスマス」のビートたけしの「北野武の「メリークリスマス、ミスターローレンス」が出てきたときには笑ったねぇ。おもしれえ噺家になりそうですぞ。

 次が鷹治、ネタは「動物園」。岡崎出身の鷹治はここ何年も聴いているが、着実に腕を上げている。桂文治一門の宮治がブレイクした。鷹治は宮治のような天性のものはもっていないが、しっかりと古典を身に着けて実力をつけていって欲しい。

 くま八は「ぜんざい公社」という古い新作。最近は権太楼で聴いた。くま八、まず枕がいけない。「公社」=「役所」ということで最近のお役所についての描写が入った。受付嬢のそっけない対応を揶揄したが、最近の役所を観察していないね。そんなたらいまわしをする受付なんて昭和が平成の初期に絶滅している。古い師匠たちのネタをなぞっていることが見え見えで、きちんと現状を把握してネタにしなくっちゃぁいけねえ。この夏に真打に昇進するそうだが、しっかりと取材をして噺を作り上げていくことをしないといい噺家にはなれまへんで。

 そこへいくってぇと、紙切りの八楽はなかなかのもので、25歳という若さなのだが、高座の風格みたいなものが身に付き始めている。色物なんだけど、話芸も達者で、鋏(はさみ)を使いながらのトークも会場を沸かせた。トリをつとめる小南の甥で紙切りの当代二楽の息子。会場からの「林家正楽」や「龍」や「観覧車」という無理難題もさらさらと切り刻んで見事だった。

 そして小南である。落語歴の長いワシャも実は初だった。というか失礼ながら知らなかった。

 どんな噺家なのか楽しみにして行ったわけだが、チラシを見る限り、ごく普通の人に見え、まぁ標準的な噺家なんだろうなぁと先入観を抱きつつ観ておりました。

 それが、チラシの印象と違って、かなり強烈な、個性的な噺家でしたぞ。声がだみ声で、そうねぇ~、高い声を出すと、「ドラゴンボール」のフリーザとよく似ただみ声になる。話し方も独特で「それからねぇ・・・こうでねぇ・・・そうでねぇ・・・ああでねぇ・・・それでねぇ・・・あってねぇ・・・」と「ねぇ」で畳み掛けてくる。最初はクセが強く気になったけれど、馴れてくるとこの「ねぇねぇ」攻撃が耳におもしろい。

ネタは「里帰り」という新作。春風亭龍昇によるもので、姑とケンカをして里に帰ってきた娘に、父親が「姑の毒殺」を勧めるという物騒な噺。

 小南、あのだみ声で、あのクセの強い噺っぷりで、娘が演じられるのかと懸念したが、なんのことはない。見事に姑問題に悩む娘を演じきった。

 62歳の小南、小柄で頭は剥げている。顔立ちもなかなか曲者で、そうねえ、雰囲気は竹中直人に似ている。噺し方も竹中からヒントを得たところがあるのかもしれない。

 世代的には春風亭昇太柳亭市馬あたりと同じくらい。柳家喬太郎林家たい平より7年くらい先輩になる。なかなか玄人好みの噺家ですな。

 

 落語会は面白かった。しかし、会場にバカップルがいたことはとてもムカついた。

 一組は若い男女で、最前列の端っこに席を取っている。最初は大人しく聞いていた女が、途中からスマホをいじり始め、小南師匠の時にも3度も長々とスマホを見ている。噺の途中で中座はするしね。かわいいネーチャンだったが、まもとなマナーは持っていない。男のほうは真面目に噺を聴いていたが、おいニーチャン、そんな女とは付き合わない方がいいぜ。

 もう一組は、中年に差し掛かったくらいのカップルで、ワシャの3列前に並んで座っている。こいつらが開演前にベタベタしていやあがんの。後頭部がやや薄くなっている男が、隣の小太りの女の胸に頭をうずめて寝ている。女は艶のない髪に櫛目も入っておらず、服装も普段着のような黒いセーターで自宅の居間にいるような感じ。それが男の頭を抱えるようにして、さらに己の顔を男の頭に引っ付けている。どう見てもベタベタカップルだ。公共施設のホールの中、普通はそういう形は取らない。帰って家でやれ。

 ケータイを鳴らしっぱなしのババアもいて、くま八から注意されても音を止められなくで会場の苦笑を誘っているし。事前申し込みの無料落語会だと、こういうバカが紛れ込むので困ってしまう。

 まぁ年末の有料落語会でも、補聴器の甲高い音を流しっぱなしのジジイがいたくらいだから、どっちもどっちか。なにしろ、観客のマナーが低下していることが目に付いた落語会だった。

 政治家の質も落ちているから民度も低下しているんだね(泣)。