勲章の価値

 朝になって、パソコンの前に座ると駄文に書き留めておきたいことが山ほど脳裏をよぎっていく。当然のこと、全部は書けないので翌日に持ちこしなんてことが多い。

 昨日、秋の叙勲が発表された。そこ関連の話をしようと思ったんだけど、「剣客商売」のほうがおもしろかったんで、ついそっちで2000字を書いてしまった。さすがに2000字以上は皆さんにご迷惑なので、今日に回したのじゃ。

 

 秋の叙勲である。4179人の方が受賞された。

 それにしても上の方には、政治家、官僚、大学教授、大企業のトップが名を連ねていて、毎回ながめているんだけど変わり映えのしない顔ぶれだと思う。例えば、元兵庫県知事の井戸敏三氏、コラムニストの勝谷誠彦さんとケンカした知事なんだけど、この人が旭日大綬章。昔で言えば勲一等ですわ。それほどの者かいな・・・と思ったのはワシャだけではあるまい。

 元農相で金に脇の甘い西川公也氏とか、あっちへ行ったりこっちへ行ったりして目が出なかった渡辺喜美氏も勲一等なので、勲一等というのは、そのレベルなのね。彼らも彼らなりに日本国のために、的が外れていても貢献をしたつもりだろうから、勲章をいただければ嬉しいのでしょう。

 大綬章の下の重光章が勲二等、このあたりは知事でも軽めの人、政治家では副大臣事務次官クラスですね。勲三等の旭日中綬章になると県会議員クラスが顔を出してくる。市長なんかの名前も見える。おっと人形浄瑠璃の吉田蓑助さんの名前がある。こういう人なら納得ができるんですがね。その次が瑞宝中綬章。準勲三等ってところでしょうか。ここからは人数が増えて、名誉教授、副知事、大使などがずらりと並ぶ。ある意味で壮観ですな。大綬章が16人、重光章42人、旭日中綬章65人、瑞宝中綬章300余人。その下に旭日小綬章(勲四等)があり、そこに俳優の三浦友和さんや作曲家の久石譲さんが入っている。え?このお二人が井戸氏や西川氏より3つも下なの?勲一等のお歴々を見ても、とても劣っていると思えない。それこそ町内活動に参加すらしないどこぞの元副知事よりも格下なのはおかしい(笑)。

 そうそう、どことは言わないけど、労働系の元県会議員様が「町内会費を納めたくない」と、ごねていたそうな。この元県議もいずれ勲章をもらうんでしょうね。

 

 9月4日の日記に司馬遼太郎のことを書いた。

《人生の師は格好いい》

https://warusyawa.hateblo.jp/entry/2023/09/04/083816

 この中のエピソードで、司馬さんが文化勲章を眼鏡ケースに入れていたことを書いた。司馬さんは勲章をぞんざいに扱っていたわけではなく、勲章を見たいという人が多いので取り出しやすくしていただけのことである。

 しかし、これもどこぞの話ということにしておくけれども、勲一等を拝綬した元議員の自宅では、床の間を改修し、そこに勲章を鎮座し、朝な夕なに拝跪して喜んでいるとかいないとか。家族といえども軽々に勲章に触れることはまかりならぬというお達しがあったとかなかったとか(笑)。

 この元議員と司馬さんの差は勲章に対する執着だと思う。どちらが格好いいかは、皆さんのご判断に委ねたい。

 

 もうひとつ、芥川龍之介のことを記しておきたい。

 1923年に創刊された『文藝春秋』に、芥川は「侏儒の言葉」という巻頭言を寄せている。それをまとめた単行本の中に、「小児」と題された短文がある。そこから引く。

《軍人の誇りとするものは必ず小児の玩具に似ている。緋縅ひおどしの鎧よろいや鍬形くわがたの兜かぶとは成人の趣味にかなった者ではない。勲章も――わたしには実際不思議である。なぜ軍人は酒にも酔わずに、勲章を下げて歩かれるのであろう?》

 ざっと100年前の芥川のアフォリズム(警句)である。現在に置き換えて、酒にも酔わず嬉々として勲章を喜ぶ老人どものいかに多いことか。

 こういったワシャのような意見は「もらえない者のひがみだ」という識者もいる。でもね、それは価値観の問題だと思うよ。例えば、第79代総理大臣の細川護熙氏は、首相経験者が受ける勲章を辞退し続けている。その理由を秘書がこう言っている。

「勲章に興味がないとしか言いようがない」

 大江健三郎のように前面に思想を押し出してくるのではなく、さりげなく辞退する、これも格好いい。

 

 薄給で、最前線で戦って、その結果、国民を守った自衛官、警察、消防などの公務員や、国から1円ももらわず、国民のために尽くした経営者、芸術家、こういった人には敬意をもって勲章をあげればいい。しかし、ふんぞり返っていれば、国庫や地方自治体の予算から潤沢な金をもらって、その上、勲章までもらうってのは少し虫がよすぎやしませんか?無給で国会議員をやっていたとか、死ぬ前に全財産を国に寄付するというような大物にこそ差し上げるべきだと思っているが、いかがでしょう。