ワシャは宴席で熱燗を好んで飲む。ビールも並行してチェイサーにしているんだが、やはり美味しい魚介には熱燗が合う。
よく一緒に飲む酒豪の後輩がいるんだが、こいつが徳利を離さず、ワシャのおちょこが少しでも減ると速攻で注いでくるからたまらない。熱燗は好きだが、料理と一緒にゆっくりと飲みたいのに、この男と飲んでいるとせわしなくていけません。
そこで、女性が同席している時には、こう言うことに決めている。
「男のおまえに注がれても美味くない。やはり女性に注がれると酒の味が違うからね」
そういって後輩から徳利を奪って、「すいませんね」と言いながら徳利をわたし注いでもらう。たおやかな指に支えられた徳利からおどおどと出てくる酒、それがおちょこに満たされていく。七分目くらいでおちょこを上げて、お酌(しゃく)を遠慮する。おちょこを口元に運び、これをくいっと飲み干す。
「美味い!」
そう言うと、後輩は「同じ酒の味が変わるわけがない」と睨むんだが、それがホントに変化するからおもしろい。
「クロスモーダル現象」
と、いうのだそうな。昨日、HNKの「サイエンスZERO」で取り上げられていた。
どういうことかというと、人間の五感はつながっていて、味覚にしても、耳から聞く音楽によって、目から入ってくる映像によって、手から伝わる触感によって、変化するというのである。
女性タレントが、初回は明るい音楽を聴きながら、2回目は不快な音楽を聴きながら、同じチョコレートを食べる実験をやっていたが、その味は全く違うものになった。初回に甘かったものが、2回目には苦み酸味がつよくなったという。
これが「クロスモーダル現象」である。
https://www.nhk.jp/p/zero/ts/XK5VKV7V98/episode/te/61KZK7PG8Q/
どうじゃ。酒豪の後輩よ。ワシャの言っていることは科学的に証明されたわい。
しとやかな女性が笑顔で徳利をもって「どうぞ」と熱燗を勧めてくれる。徳利とおちょこがときおり触れ合って音を立てる。ワシャの脳内では、視覚、聴覚、触角と味覚が相まって「クロスモーダル現象」が起こり、酒の味をより良いものに変えてくれる。
よかった。ワシャが長年言ってきたことが、間違いではなかった。