選挙のつづき

 昨日に続いて、選挙の話なんだけど、新人の選挙ってけっこう大変だと言われている。T君も4年前に新人として市議会議員選挙に臨んだが、これが大変だった。地元はあった。しかし、その地元は県議会議員が市議会議員の時の地元でもあって、他候補のように純粋な地盤という訳にはいかなかった。地域の顔役がほぼ県議会議員の後援会で、「お前も県議の支援団体に入れば応援しないこともない」というスタンスだった。

 県議がボスと呼ぶ大村知事が嫌いなT君は、県議の支援の輪には媚を売らず、地元で唯一応援してくれた先輩を頼りに立候補したのである。その先輩と、先輩の会社の従業員、そして快く選挙を手伝ってくれたごく少数の友人たちに支えられて、なんとか当選を果たした。

 選挙というのはおおむね告示前に決まる。T君の場合は、告示の半年前に仕事を辞めて活動に入った。昨日も書いたけど、20万程度の自治体の議員は自治体そのものが選挙区なのだが、それでもそれぞれの地域である程度の票を叩き出さないとなかなか当選は覚束ない。T君の場合、自分の地域を3カ月ほどかけて、1軒1軒回って歩いた。併せて市域全域に散らばる会社のOB宅をしらみつぶしにしていった。さらに現役の凸凹社員に対しては社員名簿を基にしてチラシを送って啓発を図った。それで2100票を得たのだが、T君としては、3000は叩き出せると読んでいたので、拍子抜けしたそうだ。「こんなものか」というのが率直な思いだった。

 まぁ新人の選挙は大変と言われているので、苦労の割に票数が伸びなかったことに、ある意味達観し、当選した瞬間に「次は辞めよう」と決めたそうだ。

 票を確保するというのはある意味で風に流される雲をつかむような感覚に近い。「こういった不確実なものに時間を費やすのは人生の無駄遣い」と考えたら政治家には向かない。無駄な時間の蓄積が次の選挙の当否を決める。早朝のラジオ体操で挨拶をして、ゴミ拾いにも積極的に参加し、学校行事等には必ず出席する。行事の間はひな壇でじっと時間が過ぎるのに耐える。地域活動といわれるありとあらゆる場所に顔を出し、善人づらを貫くことに時間を費やせる人が議員としての資質のある人だ。

 政策能力、交渉力、企画力、プレゼンのうまさ、幅広い知見などは二の次。ひたすら頭を下げて地域をまわり、後援者には唯々諾々と従い、上位の政治家の選挙を真面目に手伝っていれば、そこそこの票になる。

 ところが例外もある。49日議員だ。彼は政策能力以下5つの力を持っていない。地域を回るのも選挙時だけだ。後援者にも従わず、首長、国会、県会などの選挙にも消極的。しかし、真ん中あたりで堂々の当選を果たしている。そして仕事は49日、これってある意味すごいことではある。

 なんと言おうとこれが民主主義なのだ。昨日も言ったけれど、有能だろうが無能だろうが票を握ってきた当選してきた者が勝者となる。

 例外もある。能力はそこそこあり、地域でも一所懸命に活動し、後援者の意向も聞きながら、上位の選挙活動をちゃんと手伝っていても、地元に何人もの候補が乱立すると、落選の憂き目にあうこともある。T君は、選挙戦が始まってすぐの頃に、たまたまそういった状況で苦戦する候補者に遭ったそうだ。 候補者はこう言った。

「T君の選択が正しかった」

「頑張ってください」

 と、力強く応じたものの、候補者の影は薄かった。

 とにかく選挙というものは、傍から見るより大変な活動で、T君のようなタイプには向かないと思うよ(笑)。