会議は楽し

 大きな会議が終わった。類似団体のこの手の会議はおおむねやり方が決まっていて、質疑時間に制限があって、凸凹商事は1時間ちょうどと決まっているんですね。

 どこの会議でも同じような質疑パターンで、大項目に小項目がぶら下がっていて、その項目ごとに通告どおり順番に質問や意見を展開していく。

「それでは、大項目1の〇〇〇の▲▲▲について、まずは(1)の■■■の現状について質問をします」

 てな、導入部が必ずくっつけて話すのがお決まりのようになっていた。おそらく凸凹商事では伝統芸のようにこれが踏襲されてきた。

 でもね、ワシャも今までこのパターンを踏んでやってきたんだけれど、どうも話をブツブツと切ってしまう感じがして、違和感を抱いていた。それに10項目もあると、このお題目を言っているだけで何分かは割かれてしまう。その時間がもったいないと思っていた。

 いいんですよ、他の役員さんたちは、項目が10あれば、それぞれが独立した質問ということで、ブツブツに切っていただければ。でもね、ワシャは1時間の質問にストーリーをつくりたい。大袈裟かもしれないけれど、質問や意見に通底したテーマ性のようなものを潜ませておきたいのだ。

 これはやっぱり長年にわたって映画小僧として映画を観、あるいはシナリオを好んで読んでいたせいもあるのかもしれないが、最初の質問に布石を打っておいて、最後の意見でそれを活かすような「クエスチョンアンドアンサー」に作り込んでおきたいのである。せっかく1時間もワシャの話に付き合ってもらうのである。一見別立てに見える案件が、最後のところで絡んできて「ああそういうことだったのか」というカタルシスのようなものを味わってもらえればといつも考えているわけね。でも、いつもうまくいくとは限りませんよ、念のため。

 まぁワシャの時間は滞りなく終わった。厳密に言うと1時間5秒だった。退場時に拍手が起きたが、まぁ儀礼的なものも含まれているから、適当に会釈をしつつ自席にもどった。

 ワシャがその日の最終質問者だったので、そのまま散会となった。片付けをして、資料が詰まった手提げを持って会議場から外に出ると、顔見知りの社員が近づいてきて、「今回の質問はよかったですね」と言ってくる。「今回は?」と顔をしかめると、「いやいや、今回もです。今回はとくによかったです」と告げるとそそくさと離れていった。

 会議場から階下に降り、社屋を出るために、事務室フロアの真ん中を抜ける廊下を歩いていると、やはり知り合いの社員が何人か駆け寄ってきて「よかったです」と感想を言ってくれた。お追従にしても、わざわざ窓際の席から、ワシャを見つけて駆けつけてくれるのかうれしい。

 さらに駐車場に向かう途上で、キャリアも年齢も上の社外役員が声をかけてきた。

「ワシャくんの質問は物語が一本通っているからおもしろい」

 と言ってくれた。この人、チョーベテランで、しかしベテランに胡坐をかかず、質疑や意見発表でもしっかりした内容を語れる人である。その人からそう言われるとすこし照れ臭かったが、「どうも」と頭を下げておいた。

 翌日もその会議だったのだが、その日のトップバッターは社外役員の中でも論客でとおっているベテランが登壇した。ベテランといってもまだ若く、一度は社長に名乗りをあげたほどの人物で、どの会議でも舌鋒鋭く厳しい指摘をするので、執行部側が苦手とする筆頭役員だった。

 彼の質疑が午前中に終わり、その休憩中のことである。ワシャが隅の席で資料を確認していると、件の役員が近づいてきてこう言った。

「やっぱワシャさんには勝てないですわ。もうちょっとうまく組み立てようと思ったんだけどね」

 と笑っている。この人はめったに他者を褒める人ではないだけに、ちょっと驚いた。

「いえいえ」と謙遜していると、続けてこう言う。

「ワシャさんの意見にはドラマがあるんだね。勉強になりました」

 あらららら、そんなに持ち上げてどうするの?ルービーでも奢らなきゃいけないですかね(笑)。

 図らずも2人の先輩から「物語」「ドラマ」があると言われた。これは何よりもの褒め言葉だった。この2人、役員の中でも頭のいい人間なので、ワシャの仕込みに気が付いてくれたのである。

 

 さて、とあるルートから別の役員がワシャの質疑について不満を漏らしていたことを聞いた。どういうことかというと、「大項目、小項目を質問の前に言わないから、なんの質問をしているのかがよく解らない」ということだった。

 質問項目の一覧はそれぞれの役員の手元に配られている。さらにワシャはモニターを使って質疑をするので、その画面を見れば大小項目が一目で分かる。口にする必要などないのである。

 何か所か、難しい言い回しや、専門用語を使ったからついてこれなかったのかニャ?そういうのはモニターに示して説明を加えたんだけど、気がつかなかったかニャ?凸凹商事の歴史を語るあたりも、歴史を知らないと付いてこられないかもね。打てば響かないと、少しだけお勉強をしておかないと理解できないことを言ってしまって、スンツレイしました!

 でもね、ワシャの質問への反応で、明確なグループ分けができたのであった。よく理解できなかった皆さんは、どうぞ、大項目小項目を高らかに宣言して、執行部の答弁はしっかりと復唱し、無駄な時間を費やしてくだされ。

 

 ちなみに今回の質問で60分を使い切ったのはワシャだけで、若いベテランが59分30秒くらいか、残りの皆さんは40分から50分台で余裕をかましておられた。そんなに時間を余らせるならワシャにくれっていうの!

 

 一人すごいオバサン役員がいてね、質問開始から30分くらいまでは、速射砲のような質問を展開した。もう早口言葉のオンパレードのような激しさで、ほぼ何を言っているのか聞き取れなかった。執行部とはペーパーで事前打ち合わせが出来ているから、本人にはその流れが分かるのかもしれないが、もう少しゆっくり話したほうがいいだろう。

 ところが30分過ぎから、急に口調がゆっくりとなって、ゆっくりというかスローになって「そ~れ~で~は~つ~ぎ~の~だ~い~こ~~もく~に~う~つ~り~ま~す~」てな具合になってきたんでしゅ。時間配分を誤り、時間をかなり余らせてしまうことに気が付いたんでしょうね。だから帳尻を合わせるために、超スローな語り口にしている。でも、たまにそのことを忘れると、また早口に戻り、また気がつくとスローにもどすというめまぐるしい質問が展開された。

 しかし、それもいかがなものでしょう。ギャグとしてなら大受けだけど、真面目な会議でそれをやってはいけない・・・っていつも半ばふざけているワシャが言えないか(笑)。

 結局、オバサン役員の変幻自在の質問は10分程時間を余らせて終了した。フツーにやっていたらちょうどいい時間になったと思いますよ。

 

 てなことで、四半期に1度のお笑い会議が終了したのだった。あ~楽しかった。