旅立ち

 前の職場の後輩が亡くなった。その知らせが午前中の会議の前にもたらされた。

 末期の癌だった。すでに手の施しようがなく、緩和ケア病棟に移されていた。「入院している」という連絡が入ったのが、2週間前である。

 もう20年以上も前の話だ。社内の映画同好会で交流ができ、その後、3本ばかり一緒に映画を製作したものである。深夜まで続く編集作業にも、嫌な顔ひとつせずに働いてくれた。ああいった優秀なスタッフはなかなかいない。

 

 入院の連絡をもらってすぐに見舞いに行った。一緒に行ったのはやはり映画同好会の後輩だった。

 ワシャらは運がよかった。常に強い痛み止めを処方されているせいか、他の見舞客の話だと、半ば寝ているような状態で、反応もほとんどなかったと言っていた。ところが、ワシャらがいくと、たまたま減薬したところで、付添いの方が「今日はとても体調がいいんですよ」と言ってくれるぐらい反応があったのだ。

 まず、話しかけると頷いてくれる。「パワーを注入するわ」と手を握ると、ちゃんと握り返してくるではないか。そして微かだが笑ってくれた。

 あまり長居をしても迷惑だろうから、「そろそろ帰るね」というと、やはり頷いてくれたような、気がする。

 

 そして彼は旅立った。彼は、メチャメチャいいやつだったので、間違いなく極楽往生である。一緒に映画を作った仲間は、すでに何人か逝っている。向こうで映画製作の打ち合わせを進めておいてくれ。クロシャワ監督は、少し遅れていくから。あ、監督は、ちょいとばかり悪い奴なので、極楽ではなくて、地獄っぽいかなぁ。そうすると、共同製作は難しいかなぁ。