ちょっとした出来事

 昨日、午前中から某所で打ち合わせ。昼食は近所のお好み焼き屋に行ったのだが、そこでもA3用紙を8枚つなげた地図を広げて侃々諤々の議論を闘わせる。この大きな地図には、赤やピンク、ブルーに緑色とフリクションペンで印が打ってあって、この情報がかなり重要なのであった。
 テーブルに地図をおいて、男たちが「あーだ、こーだ」と話していると、ワシャは妙なことに気がついた。色とりどりのマークが消えていくのである。「なんじゃー!」と叫んでみても、色はどんどん薄くなっていく。
 ああああ、そうか、フリクションペンのインクは熱で消えていくのじゃ〜!大慌てでお好み焼きの鉄板から地図を離しましたがな。あやうく情報がみんな消えるところだった。
 その後、店から事務所にもどって、三度目の打ち合わせ。打ち合わせ終了後、2軒のお得意様に新年の挨拶に伺い、さらにそれから、メンバーの一人が近くの図書館に用事があるということで、図書館の1Fにある喫茶店に移動して、また打ち合わせ。その打ち合わせが一段落して、ようやく解散となった。
 せっかく中心市街地まで出てきたので、いつもの本屋さんにもご挨拶に伺う。何も買わないのでは決まりが悪いので、門田隆将『オウム死刑囚 魂の遍歴』(PHP)を購入する。「週刊ポスト」も買おうかと思ったけれど、隔週連載が呉智英さんではなかったのでヤンピにした。
 ついでだからということで、少し市街地から離れたところにある「ブックオフ」まで足を延ばす。「落語ファン倶楽部」(白夜書房)があったので購入する。

 その時のことである。
 20分程、店内を見て回ったけれど、結局「落語ファン倶楽部」しか欲しい本がなかった。ブックオフで1冊というのもワシャ的には珍しいが、新年早々なのでこれだけにした。そしてレジに並んだ。2つのレジには客がついていて、ワシャの前にも5人ほどのレジ待ちができている。まぁそれでも「普通ならそれほど時間はかかるまい」と多寡をくくって最後尾に並んだ。ワシャの前は坊主頭の男性と小学校の低学年くらいの男の子、親子かなぁと思って見ていたがどうやら違った。
 レジの行列はさっさと進むかと思いきや、レジの客がCDだかDVDを何枚も買っているらしく、そしてそれを細かくチェックしているのでけっこう手間取っている。かなり待たされましたぞ。ワシャは本1冊だし、とにかく行列するのが嫌いなので、よほど買うのを止めて帰ろうかと思った。もう一つのレジのほうもなかなか進まず、「こいつぁ春から縁起が悪いわぇ!」と見栄を切りたくなるのをこらえて無心になって並んでいた。
 10分くらい待たされたかなぁ。ようやく坊主頭の男性がレジに商品を置いた。その人もCD、DVDの購入だったが、細かいことを言わなかったのであっさり会計になった。「9,739円でございます」とレジのお兄さんが言う。男性は1万円をトレーに置いた。「261円のお返しです」とレジ兄は、男性に小銭を手渡した。その時、両者のタイミングがわずかにずれた。お釣りがパラパラとこぼれ、そして床にチャリンチャリンと落ちた。
 ワシャと小学生の目の前に小銭が散らばったのだ。百円玉2枚と50円玉1枚、10玉1枚に1円玉1枚。それを小学生が床にベタッとすわって転がるようにしてかき集め出した。そして男性とワシャの足元で小学生はあらかたの小銭を集めた。ただ1円玉だけがレジ下に転がり込んでいて、それを小学生は見逃すのではないか……と思っていたら、ちゃんとその1円玉も手を突っ込んで確保した。偉い。男性の手のひらには261円がきちんと戻ったのだった。
 そうしたらね、小学生、さらにレジの下から百円玉をひとつ拾い上げた。かなり埃まみれになっている百円玉だ。今、落ちたものではないな。それも小学生は男性の手のひらにのせた。これで361円になった。男性もレジのお兄さんも、顔を見合わせている。ワシャを含め、ワシャの後ろに並んでいるレジ待ちの人たちも意外な展開になったと思っていたに違いない。そうしたらね、分からないくらい小さく男性とレジ兄が頷き合った。男性は埃がついたほうではないきれいな百円玉を少年に渡した。
「ありがとう、手伝ってもらったお礼だよ」
「え、なんで?」
 と、少年は事情が呑み込めないようだったが、少年以外のレジに並んでいたオジサン連中にはみんな分かったのだった。
 おそらくワシャを含め、オジサンたちはレジをイライラして待っていたに違いない。しかし、なんだかとっても気持ちがよくなっていたのだった。
 店を出る時につい口に出てしまった。
「こいつぁ春から縁起がいいわぇ」
 チョーン!

 追伸
 今日は、まだ書きたいことがあるので、下に続きます。