袖触れ合うも その2

 こんなことがあった。数日前のことである。ワシャは事務所で昼過ぎまで仕事をして、それから食事をするために町に出た。たまたまいつもの本屋さんの前を通ったので「飯を食いながら本でも読もう」と思った。店先のスペースに自転車(新流星号)を停めて、入り口から店内に入ろうとした。

 この後の話にからんでくるので、店の配置を紹介しておきたい。入口は北の道路に向けて1カ所のみ。中に入ると両側壁面に本棚、その間に2列の両面棚が奥へと続く。都合6面の本棚があるわけだが、説明がこんがらがってくるといけないので、6面の棚を左からA棚、B棚、C棚、D棚、E棚、F棚としたい・・・・・・え~い、面倒くさい、今、適当な配置図を描いたのでそれをご覧くだされ。

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 通路は、AとB、CとD、EとFの間に通っている。左から①通路、②通路、③通路としておく。A棚は医療、家庭、美術などの専門書が並ぶ。B棚は、NHKのテキストや料理の本など、趣味の棚になっている。C棚は婦人向けの雑誌、D棚が週刊誌、マンガ雑誌スポーツ誌などの棚。E棚が男性向けの月刊誌で、「文藝春秋」や「WiLL」、「LEON」、「世界」などのやや硬めの本が並ぶ。F棚は、入り口に近いところに地図や観光ガイドが配され、その奥に一般書が並んでいる。AとFは天井まで書棚で、高いところは踏み台を使わなければ届かない。中央の両面の棚二本は成人男子の頭が見えるくらいの高さで、小柄な女性だと棚の向こう側にいてもまずわかりませんな。

 

 長い前置きですいません。ここからが今日の本編である。

 ワシャは入口の手前に立っている。自動ドアが開く。通常なら入口わきのレジの横を抜けて③通路に入っていく。男性誌を眺めながらE棚の奥(上の方)の月刊誌を物色するためである。

 入口から中に入ろうとすると、②通路の奥に店員さんがいて、ワシャを見つけた。そしてうれしそうに「ワルシャワさん、『LaLa』12月号入りましたよ」と大声で言ってくるではあ~りませんか。『LaLa』12月号にはニャンコ先生のスプーン&フォークのふろくが付いているのを知って「絶対買いに来るからね」と言っていたのを覚えてくれていたんだね。

 あんまり声掛けが大きかったので、ちょっと恥ずかしくなってしまい、店内を見渡せば③通路の奥に禿頭(とくとう)の男の人が一人いるだけだったので、ホッとしたものだった。

 いつもなら③通路に進むのを、店員さんが招くので②通路に進入し、手前の雑誌コーナーで「週刊ポスト」を手に取り、その奥のマンガ雑誌コーナーで『LaLa』12月号を受け取って、奥のレジカウンターに直行した。

 奥さんがニコニコしながら雑誌を受け取って「最近はお忙しいんですか?」と訊いてくる。

「わりと忙しいです。でも、忙しいくらいが性にあっているんで」とモジモジしながら答える。

 奥さんは「『夏目友人帳』がお好きなんですね?」とさらに訊いてくるので、鞄につけた「ニャンコ先生ストラップ」を見せて、「ニャンコ先生が好きなもんで・・・」と照れ笑いをするのだった。

 支払いをしていると、さっきの男性がなにも買わずに店を出ていくところだった。これで店内の客はワシャ一人となった。ううむ、書店業界の不況は深刻だなぁ。

 店を出て、自転車にまたがって漕ぎ出そうとしたとき、30メートルくらい前方の交差点にさっきの男性が信号待ちをしているのが見えた。その横顔を見て「お!」と声を出してしまった。

 元ワシャの上司のH氏ではないか。彼も読書家で、とくに村上春樹が好きで、職場からも近いこの本屋で何度も会っている。今は退職をされて非常勤でこの近所の会社の理事のようなことをやっていると聞いている。それにしてもずいぶん老けたな~。声を掛けようと交差点の方向に踏み出したが、H氏は小走りに交差点を渡って、駅の方角に消えてしまった。

 その上司とは確執があった。仕事上のことでよく揉めたのである。財務畑の堅実な上司と、企画畑で放っておけばどんどん事業をはだてる部下、合いっこないですよね(笑)。それでも都合10年くらいは仕事をやっていたのである。本屋で会ったなら、それも「ワルシャワ」という名前が出ているし、ワシャのガチャガチャした行動は、知り過ぎるほど知っているではないか。レジのところで奥さんと喋っているのだから、素通りするかな~?

 それくらい嫌われていたということかもしれない(反省)。