一年間お世話になりました。令和2年が皆さまにとって佳き年になりますようお祈りしております。
さて、今年の「七味五悦三会」であります。まず「七味」。
豊橋駅前のうどん屋で食べた「鰻の白焼き」が上手かった。ちょいと山葵をのせて口に含めば、海と山との絶品のハーモニー、そこにちょいと熱めの燗酒をきゅっと足して御覧なさいな。「日本に生まれてよかった~」となりますぞ。
東京の室町砂場の「さらしなの天ざる」。天とついちゃあいますが、シイタケと大葉の上で海老がそっくり返っているような天ぷら蕎麦ではござんせん。深めの小鉢の中の温かい蕎麦汁に小さめのかき揚げが浮いているっていう上品な拵えでさぁ。これにまっちろなさらしな蕎麦の先端をちょいと浸して、ずるるっと吸い込んで、そのまま喉まで落とし込む。この喉越しがたまんねぇのさ。
おっと、蕎麦の話になるってえとついつい江戸言葉が出てしまった。
名古屋のミッドランドスクエアにある居酒屋で食った北海道釧路産の「仙鳳趾の生牡蠣」も絶品だったぎゃぁ。もみじおろしにネギを添えてつるっと呑み込んでまった。う~ん、新鮮な牡蠣はまったく生臭くない。爽やかな磯の風を感じるでいかんわ。
刈谷駅前の居酒屋で食った「しらすポン酢」が美味かった。これは美味すぎてお代わりをしたくらいなのじゃ。ちょっと太めでぷりぷりしたしらすが新鮮だった。これはいまでも夢に見るほどだ。あの味をもう一度ということで、メニューにしらすポン酢があると注文するのだが、これが違うんですね(泣)。
函館で食った「塩辛」も美味かったなぁ。コクがあるというのか、イカも肉厚で、唐辛子と山椒の風味が薫って、寒かったので飛切燗に合せていただきました。
東京駅で買ったプレスバターサンド(黒)が六花亭のバターサンドの次に口に合いましたぞ。ワシャはあまり甘いものは食さないのだが、六花亭のバターサンドだけはコーヒーの時に食べることができた。それがひとつ増えた。善哉善哉。
6つ目は、友人宅で食べた手作りの焼売。これは抜群だった。崎陽軒のシウマイに勝っている。海老が大ぶりで具は白はんぺんとタマネギだという。これを辛子につけてパックといく。肉系が入っていないのでとても酒とマッチする。通常は焼売など食わないのだが、この焼売ばかりは6ついただきましたぞ。
7つ目はまったく浮かばないのだ。残念ながら年の前半、美味いものを落ち着いて食う暇がなかった。半年のブランクは、七味を揃えるにはなかなか厳しい。まぁ6つで善しとしよう。
「五悦」である。これも半年を失った分、悦びも少なめだったなぁ。
しかし5月に大いなる悦びがあった。
「御世代わり」である。平成から令和へと時代が進み、新たな天皇を戴くことができた。これにまさる慶びはない。
その他では、忙しい3月にちゃっかり「柳家小三治独演会」に行っている。これは凄かった。なにしろ現落語会の孤高の頂点に立っている国の宝である。その小三治が「死神」でご機嫌をうかがう。これはたまらない。この「一悦」だけで「五悦」分ありそうだ。
4月は、御園座で「通し狂言南総里見八犬伝」を観た。しかし、ワシャ的にはもうひとつ盛り上がらなかった。役者が、芝翫、松緑、愛之助くらいなんですね。華がないなぁ。
5月の「磯田道史講演会」はよかった。刈谷市での講演だったのだが、話の中心軸が松平一族にシフトして、どちらかというと隣の安城とか岡崎の話になっていた。それもおもしろかったんですね。
やはり5月に小説家の奥山景布子さんの最新作『圓朝』(中央公論新社)出版記念落語会があった。そこで古今亭菊之丞が「天狗裁き」と「豊志賀の死」の二席をつとめた。菊之丞腕を上げている。これからは見逃せない落語家になった。
でね、9月には地元の落語会に、やはり菊之丞がやってきた。今度は志ん生の十八番「火焔太鼓」を掛けてきた。これは凄かった。
同じ週に、豊田市美術館でやっているクリムト展を観て、その後に、NHK交響楽団のチャイコフスキーの『幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミエ」op.32』と『交響曲第2番ハ長調「小ロシア」op.17』をたっぷりと堪能できた。東ヨーロッパ、スラブ系の匂いが漂うとてもクリムトと親和性のあるコンサートで、これは最高だった。
前後するけど、8月の立川志の輔の独演会もよかったなぁ。「千両蜜柑」と「抜け雀」の二席である。現在、小三治に次ぐ位置に付けているのが志の輔だと思っている。談志をして「立川流の傑作」と言わしめた落語家である。高座は安定感があって、しかも大爆笑だった。落語はスター級が沢山いていいなぁ。
9月は「新派公演」に行ってきましたぞ。歌舞伎の時代から贔屓にしていた市川春猿が新派に移っての舞台だった。ううむ、やはり春猿は妖艶だ。これを歌舞伎から外に出してしまう松竹の方針が信じられない。まぁこれで新派の方は地固めができたが、大本の歌舞伎が役者スカスカではねぇ。
10月の文楽「生写朝顔話」(しょううつしあさがおばなし)も見ごたえがあった。文楽はもう安定感があって安心だ。「字幕」を入れたのが大正解で、素人でも楽しめる素地を作ってくれた。
御園座には片岡仁左衛門、中村獅童がやって来たが、やはり役者全体の厚みがない。
12月の名古屋の「SWA落語会」での三遊亭白鳥の「ハイパー初天神」も腹を抱えて笑わせてもらった。
おっと、もう11いってしまいましたか(笑)。ずっと遊んでいたわけではないんですよ。忙しい合間をぬって文化鑑賞に出かけていたということでご了解ください。やっぱりお手軽な落語が多いでゲスなぁ。なかなか歌舞伎座や南座には出かけられないし、文楽も大阪まで行く時間がなかったですからね。全国を西へ東へと飛び回ったけれど、仕事なのでまったく観光などできませんでした。
さて、この中から「五悦」を選ぶんですが、「令和新時代」「小三治」「志の輔」「クリムト&N響」「生写朝顔話」てなところですか。やっぱり落語が強く、歌舞伎は2つとも落選しました。やっぱりねぇ玉三郎、仁左衛門、海老蔵、菊之助、幸四郎、勘九郎、七之助、猿之助、獅童くらいしか客が入らないんだからどうしようもない。で、この顔ぶれがばらけてしまうので客の入りが見込めない。御園座はスカスカだった。いかんいかん、愚痴になってしもうたわい。
そして「三会」である。
ことしはたくさんの人に出会った。ある意味で「十会」くらいは楽にいっている。感謝してもしきれない人も多い。しかし人に会い過ぎて、若干の人嫌いになった傾向もある。自分のペースで人に会えていないんだな。これを克服するのが令和2年の課題となるだろう。
今年も大きな転機を迎えた年だった。去年と今年はワシャ的には激動の2年と言っていい。しかし、その前の何年かの苦境に比べれば、精神的にはかなり楽になった。57キロまで落ちた体重も68キロに戻ってしまったしね(泣)。
今年は「六味五悦三会」に終わりましたが、まぁ、いい年だったと言うことにしておきましょう。
それでは皆様もよいお年をお迎えください。来年もまたよろしくお願い申し上げます。