カニバリズムの話ではない(怖)。
高峰秀子のエッセイ本の名前である。高峰秀子の本は10数冊持っている。でも、同じ本もある。
写真は単行本の『おいしい人間』と文庫の『おいしい人間』。もちろん内容は一緒だ。唯一、文庫版には「文庫版のためのあとがき」が追加されているので、まぁ2冊持っていてもいいと思っている。
とにかく高峰さんはエッセイの名手である。このエッセイ集は、大河内伝次郎から伊東深水、梅原龍三郎、荻須高徳、司馬遼太郎、安野光雅などの「おいしい人間」が満載で、小津安二郎や巳喜男などもちょこっと顔を出す。
司馬さんなどは「人間たらし」という題で、司馬さんがいかに人をたらすかが克明に書かれている。しかし、司馬さんをただ褒めるばかりではなく、司馬さんらしい失敗談も語られていて、「新幹線の車内で人の弁当を平らげてしまった司馬さんの話」には、失笑させられた。
高峰さんは、司馬さんと交流のあったことをとても喜んでいる。
《私たち夫婦にとっての司馬遼太郎先生は、大げさではなく「生き甲斐」ともいえる御方だと思う。》
生き甲斐とまで言い切れる交流というものが、どれほどの深さをもっているものなのか。まだまだ人間として練れていないワルシャワには、想像すらできないはるかな境地である。おいしい人間になるには、道のりは遠い。