本から本へ

 偶然というのはおもしろい。

 たまたま書庫をさばくっていて、『同級生交歓』という文春文庫をなにげなく手に取った。奥付をみると平成18年の出版である。月刊誌の「文藝春秋」の名物コーナーの「同級生交歓」が新書化されたものですね。

 ワシャがこのコーナーを知ったのは、それこそ小学生のころ。父親が「文藝春秋」を定期購読していたので、それをよく眺めていたのである。文字のページは小学生には難しくてわからない。ですからもっぱらグラビアのページを中心にパラパラとめくっていたような有様で、この「同級生交歓」が記憶にあって、というか今ではワシャ自身が「文藝春秋」を毎月買っているから、そういった懐かしさもあってこの新書を買ったんでしょうね。

 新書に載っている登場する人物には記憶がないんですわ。毎月3組の同級生が登場するんだから、それを記憶しているのも大変ですわな。でもね、意外なものに記憶があるんですよ。

 昭和38年2月号、同級生は作家の杉本苑子と漫画家の加藤芳郎。もちろんこの二人に記憶はない。どこかの庭の池を二人が眺めている写真なのだが、まったく記憶にありません。ところがどっこい、その池の中にあるコンクリート製だと思うのだけれど、水のしたたる魚があって、その奇抜なデザインになんとなく見覚えがあるような気がするんですわ。「どこかで見たことがあるなぁ」というくらいの漠然としたものなんだけど。深い記憶の底から茫と浮かんでくるから不思議だ。

 

 この新書に付箋がいくつか打ってあるんだけど、その一つが、昭和49年2月号のものに打ってあった。そこには麻布中学卒業の3人が写っている。落語研究家の矢野誠一西武鉄道社長の堤義明、そして放送作家倉本聰だった。もちろん3人が昭和49年に「文藝春秋」に載ったことをまったく覚えていないし、13年前に、その新書に付箋を打ったことすら忘れていた。

 一昨日、その前の日も、ここで倉本さんに触れていて、新書の『ドラマへの遺言』の中では、友人の堤義明さんについて2度も触れておられた。その2日後に偶然手にした本の中で、その2人が並んで歩いているとは……。読書がさらに深まったような気がした。

 本はつながっていくからおもしろい。

 

 ちなみに『同級生交歓』と「同級生交歓」というカッコの使い分けがありますが、それは偶然に間違ったということではありません。本としては二重カギカッコ、コーナーとしてはカギカッコということで(笑)。