秋風羽織

 いつもの本屋で「およよ!」と声を出してしまった。ワシャは豊川悦司という俳優が好きで注目をしているんですね。そうしたら本屋の棚に豊川悦司がデーンと表紙に載った本があるではないかいな。
『秋風羽織の教え 人生は半分、青い』(マガジンハウス)
 著者は、秋風羽織?北川悦吏子……。誰やねん、秋風羽織って。でもね、帯を見ておおよその見当がついた。NHKの連続テレビ小説「半分、青い」に、少女漫画家役で豊川さんが出ていたことを記憶していた。その役名が、たしか秋風羽織だったような。
 ほほう、その主人公の教えということやね、おもしろそうヤンケ、ということで購入したのだった。

 ゲゲゲ!すごいな、秋風羽織。朝ドラは見ていないが、いや、出勤前のあわただしい中で、チラチラとは目にしている。しかし、物語の展開や、秋風羽織がどんな人物なのかは、皆目見当がつかない。
 しかし、この本を読んでみると、なかなかキャラの立った大物であることがわかった。
 漫画家をめざす聴覚障害の鈴愛(すずめ・主人公)という女の子が入門してくる。その時に鈴愛は秋風に、左耳が聞こえないことを告白する。それに対する秋風の答えがふるっている。
「私は耳が聞こえないから、人と違ったものが描ける!人と違った世界を知っているから、オリジナルなものが描けるとでも?いいかそういうことに甘えるな!」
 ドラマではこう言い切っている。本書ではさらに秋風羽織としてこう補足している。
「鈴愛さんが上京してティンカーベルに来たとき、彼女は私に、左耳が聞こえないことを、とても重々しい面持ちで報告しに来ました。私に言わせれば、だからどうした?人と違う世界を知っているという自慢か?だから面白い話が描けるとでも言いたいのか?という話です」
 なんという発想!秋風羽織、聴覚障害を「自慢か」と言う。そういう視点があることが驚きだった。本を読み込んでいくと、秋風羽織が、脚本を書いた北川悦吏子の分身であることが判ったが、そうか、そういう斬新な発想を持たなければ、物語は紡げないということなんですな。