豊川閣界隈 その2

 午後1時を回っていたので、遅い昼食でも取ろうかと門前のお食事処の暖簾をくぐった。狭い店内は5組の先客がいる。それも3組はすでに食事をしているのでとくに忙しいという風でもなかったのだが、お運びをしている初老のおばさんも調理場で指図をしている初老のおじさんもとても忙しそうなのだ。
 どのくらい忙しいかというと、ワシャのところにお茶を運ぶのに15分も掛かった。ワシャの後から入ってきた孫連れの老夫婦は、10分ほど待たされてお茶もおしぼりも出てこないので、業を煮やして出ていってしまったほどなのである。
 どうせ暇なので「なぜ、この店は忙しくないのに忙しいのか?」ということに関して仮説を立ててみた。
 1 お運びのおばさんの要領が悪い。
 2 昼のピーク時が過ぎて疲れきっている。
 3 豊川稲荷の門前なので手を抜いていても客は入るので適当にやっている。
 4 寄る年波で体が動かない。
 ようやく入店してから30分が経過して「天麩羅おろしそば」が運ばれてきた。思ったよりも早く出てきたなぁ。さっそく汁を飲んでみる。う〜む、味も見事に期待を裏切らなかった。まったく出汁がとれていない。醤油の生の味がそのままする。麺はどうだろう・・・市販のソバ麺はだらだらだった。
 最後のオーダーをこなして暇になったのか、おじさんが調理場から店に出てきた。座敷の上がり框に腰掛けると、近くの客に「豊川稲荷春季大祭」の薀蓄を大声で話しはじめたのだ。
 原因はおじさんだった。おばさんはまだ調理場にいて忙しく片付けをしているにも関らずおじさんはすっかりくつろいでいる。そういえばさっきもどんぶりを用意しろだの、味噌汁をつけろだの、いろいろとおばさんに指図していたっけ。そんなこと自分でやればいいのに、みんなおばさんに押し付けていた。おじさんは麺のゆで加減だけをみているようだった。それにしてはこのだらだら麺、なんとかならないものだろうか。
 そそくさとソバを飲みこむと勘定を済ませて外に出た。目の前は境内の杜である。そこから歌声が聞こえてくる。歌謡ショーが始まったらしい。
「それでも海老天はうまかったな・・・」
 杜の上に広がる空を見上げて、ふっとそんなことを思った。