思い出の街

 朝、がらりと風が変った。寝室にはエアコンが入れてあって、朝まで28度をキープしている。昨日までは寝室を出ると、2階の廊下が熱を持っていた。吹き抜けの窓は開いているのだが、そこから入ってくる風が熱い。
 ところが今日は違っていた。28度の寝室を出ると、廊下がひんやりとしているではあ〜りませんか。おそらく陽が登ってくれば暑くなるのだろうが、午前6時の風はひんやりしている。だから朝のシャワーもちょっと鳥肌が立ちましたぞ。

 夕べ、隣町で小さな宴があった。駅前からかなり歩いたが、隠れ家のようなひっそりとした佇まいのお店だった。お酒も美味しくて、料理も手が込んでいる。和のコースで出てくるのだが、これがみんなお腹に収まってしまった。
 このお店の近くに、かなりくたびれた2階建てのフィリピンパブがあった。どこかで見たことがある建物だなぁ……と思いつつ記憶をたどると、それが学生時代にアルバイトしていたクラブだったんですね。隣町ではけっこう有名な高級店だった。いまはフィリピンパブになったのかぁ。でも懐かしいなぁ。
 そんな話をしていたら、一緒に飲んでいた先輩が「ぼくもよく飲みにきていた」と言われるではありませんか。
「めぐちゃんっていう娘(こ)がいたよね」
 おおお、よく覚えておられましたな。愛嬌があって、可愛くて、客足らいがいい。その店ではめちゃめちゃ売れっ子だった娘(こ)ですぞ。
 帰り道にその名前が飛び出たので、ひとしきり懐かしい話題で盛り上がってしまった。記憶の池の底に沈んでいた思い出が突然浮上してきた。

 考えてみれば、隣町の駅周辺で1年以上アルバイトをしていたわけで、まさに青春の1ページをこの街で過ごしていた。そうか……だからワシャは隣町に対しポジティブであり、好意的な発言をしてきたんだなぁ。