自分の時計を信じなさい

 ワシャの家は、朝日新聞中日新聞を取っている。朝日新聞を読むのは、中和剤的な意味合いが強い。朝日新聞がいろいろと不祥事を起こすたびに何度も止めようかと思ったけれど、左巻きの情報もないと的確な状況判断ができなくなるからね。
中日新聞は、朝起きの老父がまず読むことになっている。よほどの大事件があれば、横取りをして目を通す。事件がなければ、父親の朝の憩いの時間を邪魔したくないから、中日新聞を読むのは、その日の夜とか翌朝になることが多い。
 だから、今、1日前の「中日春秋」を読んでいる。浅利慶太氏の訃報ネタである。看板コラムの死亡記事化はあまり評価しないのだが、冒頭にワシャが絶対に引っ掛かるキーワードがあった。
《「歌」と「舞」、そしてわざを表す「伎」。歌舞伎の三文字に、浅利慶太さんは、可能性を見いだした。》
「歌舞伎」とあったら読まねばなるめい。「浅利慶太と歌舞伎」という組み合わせにも興味がありますしね。
 ううむ、どうやら浅利氏は「日本には、歌舞伎に加え、能、狂言文楽があったから、演劇への愛情が存在するはずだ」と確信し、劇団四季にミュージカルを導入したそうだ。コラム中にこうある。
《かつては難しかった団員が食べていける劇団づくりにも挑んだ。》
 1983年、劇団四季が30周年を迎えたときに浅利氏は大きな賭けに出た。その頃、劇団員のほとんどはアルバイトで生計を立てつつ演劇の修行をするという状態だったという。その状況を変えるために、専用劇場を造ってロングラン公演を実施した。ミュージカル「キャッツ」であった。そして今の興隆がある。浅利慶太氏の先見は見事に当たった。
 コラムは浅利氏という稀代の天才を紹介して終わった。だから奥行きがない。ここで、浅利氏が若い世代に送った応援の言葉を紹介すればよかったのだが……。
「自分の時計を信じなさい」
 浅利氏は、若い俳優を励ましてこう言った。
「どんなに下手でも食らいついて練習していれば必ず輝くときがくる。他人と比べてはいけない。自分の可能性を信じて前に進んでほしい」
 このリーダーを得て、劇団四季は成功するべくして成功した。某大のアメフトの監督とはえらい違いやね。