探検

 ワルシャワ家は少し離れたところに倉庫があって、昨日はそこの中に1日もぐり込んでいた。明日の端午の節句に飾る五月人形を探すためである。息子が小さいころは毎年出していたんですよ。息子も成長していって、家を建て替える時に、五月人形一式を箱に詰めて倉庫に移してしまった。もうしまう場所が家から離れてしまうと、そうそう出してきて飾るというわけにもいかず、五月人形は倉庫の奥で長い眠りについた。
 それが今年、ひょんなことから五月人形を出すことになって、ワシャが倉庫に籠っていたという話。

 そもそもこの倉庫にしたってワシャの両親が管理しているので、ワシャ自身、中に入るのも十数年ぶりだった。作業着にマスク、手袋、ヘルメットという重装備で突入したのだが、これが大変ですわ。両親がランダムに不用品を突っ込んでいるだけなので、なにがどこにあるのやら(トホホ)。
 通路は人一人がやっとこさ通れるほど。それが奥に続いているだけで、あとは物物物物……入ってすぐにはどでかい座敷用の机が立てかけられている。その他にも机が2卓、椅子は10脚以上並んでいる。その奥に冷蔵庫が2台、炭の俵が2つ、スキーの板が6セット、ウエットスーツやハーネス(これらはワシャのだった)もあった。本の積んであるコーナーもあって、ここには昭和30年代の「宝石」などの雑誌類が豊富だ。いかんいかん、読み始めるとそれだけで一日が終わってしまう。
 しかし、このあたりまで来るとだんだん薄暗くなってくる。太陽光が届かないのである。そんなこともあろうかと、ワシャは懐中電灯を持参している。カチッ。奥に進もう。
 ほう、このあたりは座布団やら食器やら、資生堂のバスボン石鹸が30箱も出てきましたぞ。松本ちえこが「バスボンのうた」を唄っていたころから考えても、この石鹸、何年ものだろう。ワインならいい値がつきそうだ。
 おおお、ワシャが喫煙者だったころ集めていた各種のマッチもでかいケースで発見された。今はなきワルのたまり場のサテンのマッチ……懐かしいなぁ。
 オモチャも山ほど出てきた。ケンパン(知ってますか)、力士消しゴム、人生ゲーム、カードゲームに木製の積み木。だんだん五月人形に近づいてきたような気がしてくる。
 でもね、この辺りから通路が狭まってきて、なおかつモノが置かれ始め、足の踏み場が無くなってきた。どうするワルシャワ
 ここでワシャは奥に続くルートを発見する。右手の棚に上がって、そこを伝って奥に進むのである。ワシャは火鉢を足掛かりにして、棚板を掴んで、体を宙に浮かせた。しかし手がかり足がかりになるところはとても心細い。三点確保でいかないと滑落する。滑落すれば、次の春まで見つけてもらえない(なんのこっちゃ)。
 棚沿いに奥に進んだ。最初は2段目の棚を移動していたのだが、途中で荷物に阻まれ、最上段の棚に移動せざるを得ない。最上段は棚板が薄くかなり危険である。その上に屋根が迫っているので匍匐前進しかできない。かなり過酷な状況だ。
 昨日は低気圧が過ぎ、強い北風が吹いて寒い日だったが、ワシャは汗びっしょりだった。上段の棚で時折休憩し補水をしながら這うように数センチずつ進んでいく。
 最後の梁を越えたあたりで、ついに大きな箱に突き当たった。ここがおそらく最深部であろう。おお、箱に何か書いてある。だが、埃にすすけていて判読できない。ワシャは手拭でその埃を払った。箱書きがようやく読めるようになった。「五月人形」、確かにそう書いてある。
「あったどー!」
 ついに五月人形を発見した。五月人形が永き眠りから覚めて甦る時が来た。
 ワシャはその五月人形を背に固定すると、来た道を延々と戻るのであった。
https://www.youtube.com/watch?v=Lz739xMcoy4