展示会に刺激されて

 先週、名古屋市博物館で開催中の展覧会に行ってきた。『レオナルド・ダ・ヴィンチと「アンギアーリの戦い」展』である。でもね、「ダ・ヴィンチ」と謳いながらダ・ヴィンチの作品は一点もなかった。手記が展示されてはいたが、コピーだった。要は絵画展ではなく、ダ・ヴィンチの描いたフィレンツェのベッキオ宮殿壁画の模写「タヴォラ・ドーリア」をメインに据え、その模写に関わる事歴を検証した歴史展示、ということである。
 でも、面白かったんですよ。シニョーリア広場を描いた「祝祭」の絵と「火刑」の絵。「ニッコロ・マキアヴェッリの肖像」。もちろん「タヴォラ・ドーリア」も見ごたえがあったし、そこに出てくる傭兵隊長肖像画などもあって、多角的にダ・ヴィンチの壁画の研究が示されてあった。

 こういった展示会を覗くのはとてもいい脳への刺激になる。眼から絵画や造形の情報を得ることで、忘れかけていた中世イタリアへの興味が再び喚起されるからである。
 だからこの週末は時間があれば15世紀、16世紀のイタリアの歴史を繙いているんですよ。
『世界の歴史』(中央公論社)などを30年ぶりに読み直している。他にも『ルネサンスの歴史』(中公文庫)、『フィレンツェ史』(岩波文庫)、『フィレンツェ』(原書房)、『イタリア史』(山川出版社)など10冊くらいに目を通す。
 イタリア中世史、おもしろいっす。暗黒の中世の終止符となったサヴォナローラ、商人君主のロレンツォ、そして、死後その名が世界に轟いたマキアヴェリ。もちろん、ダ・ヴィンチミケランジェロも登場する。とても厚みのある時代である。
 なんで歴史ってこんなに楽しいのだろう。

 稀代の策士マキアヴェリ関連の文献で、こんな言葉を見つけた。
「一個人の力量に頼っているだけの国家の命は、短い」
 これは国家を組織と読み替えてもいい。一個人の力量に頼っているだけでは組織は脆い。とくに組織の中で権力を持つものが、そう思い込むことが危険だ。
「あいつは病弱だから」
「あいつは女癖が悪いから」
「あいつはバカだから」
 そんな理由で有能な後継を潰していってはいけない。組織にはいろいろな人間がいて巧く回っていくのである。少しくらい欠点がある人間のほうが、間に合ったりする。病弱ではなくて、女にもてず、小利口しか取り柄のないやつがどれほどの役に立つか!

 そんなことが中世史を読み直していて見えてきた(笑)。