日田の話

 大分県の日田から、視察団が来た。半月ほど前に部下から「偉い人たちだから冒頭に挨拶してくれ」と言われていたが、ワシャは公式の挨拶というやつがからきしダメなのだ。心のこもっていない型どおりの式辞というのを話すのが苦手というか、口が回らない。部下もそのことは知っていて「雑談でもいいから」とのことだったので引き受けた。

 先週の末のことである。BSジャパンで「男は辛いよ」が放映されていた。後藤久美子の初出演の回で、調べたら第42話の「ぼくの伯父さん」だった。そのことを覚えていた。とすると、次週は第43話ですわな。『寅さん読本』で調べるまでもなく、「寅通」であるワシャは、その回が大分県の日田市が舞台であることがわかっていた。いただきだ(笑)。挨拶はこの話で十分に10分はもつ。

 相手にどういう事情があるのか解らない。ただ遠方から来てくれていることは間違いなく、こちらとしては当然のことながら歓迎の意を表すべきだと思っている。「歓迎をしていますよ」というのは、定型の文言を羅列するだけでは通じない。そこはそれ、工夫がいるのである。
「本日は遠方よりお越しいただきましてありがとうございました」は冒頭に言うにしても、そのあとの社交辞令は省き、ワシャはすぐに日田が「男は辛いよ」の舞台になったこと、それを偶然に思い出したこと、ゆえにDVDを入手して日田の情報収集に努めたことに触れた。
 このことが「歓迎の意」なのである。「皆さんが来る前に予習しましたよ」ということをさりげなく伝える。ワシャの場合はダイレクトに伝えたけどね(笑)。
「山があって、川があって、歴史があって、街がある。風光明媚なところですね」
 と持ち上げても、「男は辛いよ」の舞台となっているのだから、事実そのとおりで、無理して持ち上げているわけではない。
 型どおりの挨拶かと思いきや、故郷を知っている人間(夕べ知ったところだけど)が、「いいところだ」と言ってくれている。それまで下を向いていた視察者の何人かがこっちを向いた。それでいいのだ。
 後藤久美子の話をしていたら、ワシャの持ち時間はあっという間に終わってしまった。
 あとで部下に、「挨拶するためだけに映画を観てくるとは……」と呆れられたが、別にそのためだけじゃない。久しぶりにゴクミに会いたくなったのがメインの動機なのでひた。