吸殻から考えた

 ワシャはタバコを吸わない。若い頃にはケツからヤニが出るほど吸いまくった。スキーに行くときなども、喫煙者ですらワシャと同じ車に乗るのを嫌がったほどである。昔は車内喫煙など当たり前だったから、誰が乗っていようと遠慮なく吹かしまくったものだ。
 それが、あることをきっかけとしてスッパリと止めてしまった。その理由はこの日記のどこかに書いている。それから20年ほど吸っていないんですね。
 そんなわけで、かつてヘビースモーカーであったことから、比較的、喫煙については理解のあるほうだと思う。少なくともヒステリックな禁煙原理主義者ではない。狂気のような喫煙者排除というものは、はっきり言って異常だとみている。

 ワシャはときおり職場周辺の道路や公園のごみ拾いをする。やっぱりきれいな空間がいいじゃないですか。そこでつくづくと思うのは、タバコの吸殻が尋常ではないということである。職場の南側に公園があって、その西側を遊歩道が通っている。その辺りを20分程度のわずかな時間うろうろするだけなのだが、あっという間に小さなレジ袋に半分くらいは吸殻が拾える。これはいただけない。
 もちろんマナーを守って吸っている喫煙者のかたもいるだろう。しかし、ワシャの職場周辺の限られた区域の中を見るだけでも、吸殻を捨てる慮外者がいることがわかる。そしてフィルターの種類、吸い方などを観察すると、その慮外者が10人やそこらでは収まらない人数(もっと多いかも)だということがわかる。これはいただけない。さすがに心の広いワシャ(笑)でも、いかがなものかと思う。
 要するにマナーの悪い少数のタバコ吸いが、ルールを守って喫煙している人の足を引っ張っているのだ。かつて愛煙家だったものからすると、それは悲しい。

男はつらいよ」の車寅次郎は非喫煙者である。アウトローであるにも関わらず、1本のタバコも吸わない。それは演者である渥美清さんの体調によるものなのだが、ドラマを考える場合、そういった事情は排除して考えたい。
寅さん、タバコを吸わない。しかし、どうも子供の頃は吸っていたらしい。よく寅さんが話すエピソードの中にこんなものがある。
「俺が裏のヤツデの陰でモクを吹かしていると……あ、モクというのはエンタのことね。煙が、流れていって、ちょうど便所でしゃがんでいた親父の股間をスーッと流れていったんですね……」
 息子がタバコを隠れて吸っていることを見つけた父親が、マキザッポで寅さんの頭をはたき、そのことに怒った寅さん郎は家を出てしまう、という「男はつらいよ」を成立せしめている原点のエピソードにタバコが出てくる。そのことでかつて未成年のときに寅さんがタバコを吸っていたことわかる。
 でも、ヤクザ、フーテン、アウトローにはくわえタバコが似合う。というかつきものと言ってもいい。寅さんもタバコを吸えばハンフリー・ボガードばりに格好良くなるかもしれない。
 反対に、ところが寅さんとからむ人たちに喫煙者は多い。おいちゃん、ヒロシは言うに及ばず、マドンナたちも少しヤクザで格好いい女性はみんなタバコを吸う。北海道の函館かなぁ、港の一角でリリー(浅丘ルリ子)がタバコをふかす。テキヤの女房光枝(音無美紀子)も喫煙者だった。満夫の彼女の泉ちゃんの母親(夏木マリ)もスモーカーである。
 寅さんは48作の中で1本のタバコも吸わない。しかし、目の前でタバコを吸う人たちに対して、文句をいったこともないのである。自分は吸わないけれど、マナーにそってタバコを楽しむ人たちの嗜好までは踏み込まない。そんな配慮が寅さんにはあるような気がする。

 禁煙原理主義者の皆さんには見習ってほしいものだ。